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2023年3月

2023年3月30日 (木)

浮かぶお星さま、渡されたバトン

2023年3月20日~2023年3月27日放送 
新潟放送 BSNウェーブ 佐藤実南

【番組概要】
新潟市中央区古町通3番町にある「喫茶UKIHOSHI」。そこで提供されているのは、「浮き星」という小さなお菓子です。金平糖のような見た目のお菓子ですが、あられに砂糖をコーティングしたもので、お湯を注いで飲む、全くの別物。作っているのは、明治33年創業の明治屋ゆかり店。もともとは「ゆか里」という名で、明治時代から新潟市民に親しまれてきました。しかし、職人の高齢化、後継者不足などが理由で、その味と歴史は途切れかけていました。そんな「ゆか里」の味を守りたいと声をあげたのは、一人のデザイナーでした。ゆか里から浮き星へ。味と歴史のバトンを繋ぐ人々のお話です。

【制作意図】
「喫茶UKIHOSHI」に入り、まず目に付くのが、ずらりと並んだ小さなお菓子たち。
その、可愛らしいパッケージの裏には、伝統を守ろうと奮闘した人々の思いがつづられていました。
120年以上代々受け継がれてきた職人技と、新しいデザインや企画がどのような化学変化を起こしてきたのか。伝統を守って来た人、そのバトンを受け取り未来に繋いでいく人、それぞれの思いを取材しました。

【制作後記】
今回の取材を通して、変わっていく時代の中で、同じものを作り続け、求められ続けることの厳しさを感じました。明治屋の3代目の小林さんは、戦争、新潟地震など沢山の困難を乗り越え、ゆか里の味を守って来たそうです。浮き星(ゆか里)に限らず私たちの生活は、先人たちが大切に守り繋いできたもので溢れているのだと気づくことができ、簡単に途絶えさせてはいけないのだと思いました。この作品が、聴いた人の身の回りの無くしてはいけないものに、目を向けるキッカケになってくれたら嬉しいです。

刀匠 松葉國正 鋼も溶かす熱い

2023年3月13日~2023年3月19日放送 
宮崎放送 ラジオ局ラジオ部 丸山莉奈

【番組概要】
1000年以上の歴史がある「日本刀」の刀匠が宮崎県日向市にいらっしゃいます。日向市は、宮崎県の北東部に位置し、日向灘海域に面しています。日向の国にゆかりのある刀工の作品は、太陽の国の刀という意味で日州刀と呼ばれています。今回の主人公、松葉國正さんは刀鍛冶になって34年。郷里である日向市に鍛冶場を構えました。日本一を意味する日本美術刀剣保存協会会長賞、4年連続で特賞第一席、など多数の賞を受賞。2014年に無鑑査の称号を得て、現代の名工の一人です。そして松葉さんの「日本刀制作技術」は2022年、宮崎県の無形文化財に登録されました。刀づくりが楽しくて楽しくて仕方がないと話す、松葉さん。突然の病魔により、1年以上刀を作れない時期もありました。それでも諦めず、鋼を打ち続ける刀鍛冶の熱い想いを届けます。

【制作意図】
何気なく「日本刀制作技術」が宮崎県の無形文化財に登録された記事を読みました。日本刀ってどうやって作るのだろう、と疑問に思い、調べてみました。原料である玉鋼を竹炭で熱し、槌で何度も打ち延ばして刀の形に整形していきます。全国でも刀鍛冶が数少ない中、宮崎県にこんな凄い方がいらっしゃるということ、文化財にも指定された「日本刀制作技術」をみなさんに知ってほしいと思い、制作しました。

【制作後記】
刀匠、職人というと寡黙なイメージがありましたが、松葉さんはとっても明るく元気な方でした。日本刀の世界で頂点に立たれた今でも「刀づくりはとても難しい、ひとつひとつ新たな気持ちで作成している」とおっしゃっていました。侍のいない時代になぜ刀を作り続けるのか、松葉さんは日本刀が美しいから、日本刀を自分の手で作り出せることがこの上ない幸せ、と答えが返ってきました。日本刀愛に溢れた松葉さんの熱い想いが、皆様に届くことを願っております。

2023年3月 9日 (木)

旗やのぼりで町づくり~今も受け継がれる染物の魅力~

2023年3月6日~2023年3月12日放送 
和歌山放送 報道制作局報道制作部 黒川綾香

【番組概要】
和歌山県の真ん中に位置する御坊市。この御坊市には毎年10月4日・5日に行われる「御坊祭」という、地元の人に愛されている大きな祭りがある。「御坊祭」はもちろん、その他日高郡内で行われているお祭りの装束や旗を一手に担っている染物屋の存在を知った。「そめみち染物旗店」。その店の三代目・染道祥博さん。祖父、父の背中を追ってこの世界に飛び込んだ染道さん。最初からこの仕事をやりたい訳ではなかった染道さんがどうしてお店を継ぐ気になったのか?そこにはモノづくりに対する情熱が隠されていた。地元の人からの信頼も厚いこのお店。お客さんの声も交えながら、伝統を守りながらも新しいことに挑戦する染道さんを追った。

【制作意図】
染物屋ってどんなことをしているんだろう?堅いイメージというだけでなく、そもそもどんな作業をしているのか皆目見当もつかない。そんな仕事の裏側を知りたくて、門を叩いた。地元の人であれば誰もが知っているお店。祭りの装束だけではなく、のぼり旗や店の暖簾など、生活に密着した作品もたくさんある。その1つ1つに時間と手間をかけながら、手作業で創り上げていく。何気なく見ている身近なものが、作り手によって大切に生み出されていること、そして、その作品が町にイロドリを添えていることを皆さんにも知ってほしい。

【制作後記】
今回は祭り用の旗を作成しているところを見せてもらったが、1つ1つの作業どれも気が抜けないことがよくわかった。色を付けたり、乾かしたり、洗ったり、いろいろな作業があるが、天候にも大きく左右されるのだという。「梅雨が大敵」と話してくれた染道さん。乾燥した時期であれば1日もあれば乾くものが、梅雨時期には2週間・3週間経っても乾かないこともあるそうだ。10月のお祭りに向けて忙しい時期に遅々として作業が進まないことも・・・。私なら「どうしよう!!」とパニックになってしまいそうなところだが、さすが染道さん。「焦っても仕方ない。焦ってやっても良いものはできないから、ただただ待つのみ」と話してくれた。素晴らしい作品の裏側にはいろいろな苦労があるもの。この番組を制作することで改めてそのことに気付くことができた。

指笛王国おきなわ~みんなで奏でるハーモニー

2023年2月27日~2023年3月5日放送 
ラジオ沖縄 報道部 金城奈々絵

【番組概要】
エイサーなど沖縄の伝統芸能に欠かせない音の一つが「指笛」です。指笛は指と唇を使って笛のような音を奏でるもので、お囃子のように場を盛り上げます。沖縄では、高校野球などスポーツの応援シーンでも、指笛が響きます。沖縄県民の暮らしに溶け込む指笛で、メロディーを奏でているのが、音楽サークル「指笛王国おきなわ」です。メンバーは、60代から最高齢92才までの30人。サークル内で「国王」としてメンバーをリードするのは垣花譲二さん(74歳)です。垣花さんは、指笛を沖縄の文化と位置づけ、次世代に継承していこうと2005年に指笛王国を建国しました。                                  垣花国王とともに練習をリードしているのが、視覚障碍者の金城利信さんです。金城さんは、難病のため中途失明し、趣味で琉球古典音楽の三線や笛の演奏を始め、こうした経験を活かして指笛王国では音楽大臣を務めています。金城さんは、指笛メロディーで難易度の高い、高音を美しく響かせることができる上級者です。メンバーは「金城さんのようになりたい!」と切磋琢磨しながら練習に励み、指笛の普及・継承に取り組んでいます。番組ではメンバーの声を交えて、指笛音楽の世界をお届けします。

【制作意図】
指笛という沖縄の伝統芸能を影で支える音にスポットをあて、指笛メロディーを紡ぐサークルの存在を多くの方に知ってほしいという思いから取材・制作しました。また、サークル内で活動する金城利信さんが難病を乗り越え、音楽を通じて仲間と交流している姿から、障害のあるなしに関わらず、互いを尊重しあうサークルの雰囲気も併せて伝えたいと思い、制作に取り組みました。

【制作後記】
取材をする中で、指笛王国の皆さんに指笛メロディーをたくさん聞かせて頂きました。指笛は、それぞれの個性も反映しており、1人1人の音色が重なりあって優しい響きと美しいハーモニーが築かれているように感じました。リスナーの皆さんにも、放送を聞いてあたたかな気持ちを感じてもらえたら幸いです。

白い輝きそうめんづくり

2023年2月20日~2023年2月26日放送 
西日本放送 ラジオセンター 白井美由紀

【番組概要】
香川県の小豆島で400年間続く手延べそうめんづくり。そうめんというと、夏のイメージがありますが、実はそうめんづくりの最盛期は冬。寒い冬は空気が乾燥していて、そうめんの味も引き締まるそうです。また、天日干しにすることで、太陽の光を浴び、そうめんはより白い輝きを増し、美味しく仕上がります。以前は、一つ一つの工程を手作業、足作業で行っていたそうめんづくりですが、最近ではずいぶん機械化も進み便利になりました。しかし、いくら機械を使っても、その日の温度や湿度、気候などにより、刻一刻と変化するそうめんの状態を確かめるのは、職人の五感。そして必ず仕上がりの部分には人の手による作業があります。マルカツ製麺所の三木さんは「面倒をみる」という表現を使っていましたが、まさに目が離せない幼い子どものように、常に見て、常に触って、においや音も感じながら、その状態を確認して作業しています。朝5時からスタートした作業は夕方5時まで、その間ほとんど、全力疾走するかのように家族みんなが動いていました。(機械はその工程ごとに代わるので、機械の方が休んでいるかも・・・)手間のかかる作業ですが、そうめんにまで心地よい音楽を聞かせる・・・なんて愛情もたっぷりかけて美味しいそうめんを作る三木さんの想いを届けます。

【制作意図】
小豆島でそうめん業をしているところは昔は250軒ほどあったそうですが、今は120軒くらいとかなり減っています。職人の高齢化も進み、60歳~70歳台の人が多いとか。三木さんは30歳台でかなり若手です。作業は、三木さんとお母さん、その日によって従業員さんがくる場合もあるくらい。ほとんど家族でされています。マルカツ製麺所5代目のお父さんは、三木さんが大学卒業後アパレルの仕事をしていた社会人2年目の時に亡くなられ、それを機に、島に戻ってきたそうです。叔父さんがいろいろと教えてくれていましたが、その叔父さんも早くに亡くなってしまい、以降いろんな人に教えてもらいながら、そうめん職人として育ててもらったといいます。若手ならではの工夫やアイデアをいろいろと試行錯誤しながら、これからのそうめん業を盛りあげていきたいと、日々努力を重ねています。若い職人さんがそうめんづくりに興味を持ってもらえるように、三木さんの思いが届きますようにと制作しました。

【制作後記】
そうめんづくりは、どの工程も大切で、朝5時から夕方までの作業すべては番組に反映できませんが、丁寧に丁寧に作られていることに、感動しました。三木さんご家族や、小豆島の皆さんの溢れる愛とお人柄にふれて、心が洗われるような取材でした。お昼ごはんには、生そうめんをいただきました。もともとまかないとして食べられていた生そうめん、最近ではマルカツ製麺所さんでも通販で販売していますが、この味が忘れられません。コシがあって、のど越しもよく、香り高く味わい深い生そうめんにすっかりハマってしまってます。生そうめんのことは、地元の人でも知らない人が多いくらいレアです。ちなみに、生そうめんに、そうめんつゆだけじゃなく、小豆島の特産品でもある「オリーブオイル」を少しかけると、これまた、最高です!!!意外と思われるかもしれませんが、「出会うべくして出会った運命の出会い」と言えるくらい、相性バツグンです。

ホーランエンヤ ~勇壮に、晴れやかに

2023年2月13日~2023年2月19日放送 
大分放送 OBSメディア21ラジオ本部 音声コンテンツ部 尾上 裕明

【番組概要】
九州の北東部に位置する大分県豊後高田市の「ホーランエンヤ」は、航海の安全と豊漁を祈願する伝統行事で、江戸時代中期に始まったと言われています。町を流れる桂川を舞台に、大漁旗や万国旗などで装飾された宝来船が、締め込み姿の13人の「漕ぎ手」と呼ばれる若者たちをはじめ、総勢50名ほどを乗せて、河口から上流へゆっくりと漕ぎ上がります。途中、川岸の観衆から祝儀が贈られると、締め込み姿の漕ぎ手たちは、厳寒の中、驚きの行動を見せます…
船が進む間、終始聞こえる「ホーランエンヤ!」という勇ましい掛け声に、人々は心を躍らせ、ご利益を願い、笑顔で新たな年の始まりを祝います。

【制作意図】
コロナ禍で中止されていた各地の行事が少しずつ再開される中、タイミング良く取材時期と重なったのが、この威勢の良い行事でした。誰もが耐え忍んだ行動制限の鬱憤を晴らすかのような勇壮な掛け声は、どんな困難にも決して負けない!というメッセージのようで、心強く、安心感さえ与えてくれました。また、漕ぎ手たちの勇姿、町の人々の声援、そこに溢れる笑顔が、厳しい寒さの中、温もりを与えてくれました。豊後高田市の「人」が放つエネルギーを全国の方々に届けたいと思い、制作しました。

【制作後記】
「ホーランエンヤ」では、川を登る船から川岸の観衆に向けて紅白の餅が撒かれます。縁起物の餅を取ろうと人々が必死に船を追いかけ、手を伸ばす中、収音作業で両手が塞がった状態の私の頭や背中には、餅がいくつも降り掛かりました。そんな時、ひとりの女性が声をかけてくださり、私の上着のポケットに餅を入れ、ご利益を分けてくれました。その後、そのエピソードを豊後高田市の方に伝えたところ、「幸せを分け合う優しい町なんです」と嬉しそうに言葉を返してくださり、私自身、年始早々、晴れやかな気持ちになりました。



「明日の空を守る」~航空自衛隊パイロットの故郷から

2023年2月6日~2023年2月12日放送 
山口放送 ラジオ制作部 奥田貴弘

【番組概要】
山口県の中部、瀬戸内海に面する防府市は、日本三天神の一つ防府天満宮や、その昔は塩田が広がった場所に発展した工場地帯など、歴史と産業の町です。この町の上空を、小型機の編隊がプロペラの音を響かせながら飛んでいます。

市内にある航空自衛隊・防府北基地に所属する、第12飛行教育団の初等練習機T-7です。
航空自衛隊の戦闘機や輸送機、ヘリコプターなどを操縦する全てパイロットは、必ず最初に航空学生として防府北基地に配属され、パイロットとしての初期教育課程を学びます。
今回はソロフライトを重ね、次のステップへと進もうとする航空学生や、指導をする操縦教官。地上でバックアップする整備員の思いをお伝えします。

【制作意図】
防府市内では制服姿の若い自衛官や、上空を旋回する練習機は日常の一部です。
しかしその基地の中で自衛官たちがどのように訓練を重ねているのか、基地祭などのイベントだけではなかなか知ることができません。国防について関心が高まっている今、どんな若者が厳しいパイロットへの道を歩んでいるのか。また、どんな教官が指導をしているのか知りたいと思い、防府北基地を取材しました。張りつめた空気のブリーフィング、T-7練習機のターボプロップエンジンの音をぜひお聞きください。

【制作後記】
防府市で毎年12月に行われる防府読売マラソンは、山口放送でテレビ・ラジオの実況生中継をしています。以前、テレビ技術の仕事をしていた頃、中継ヘリのパイロットと飲む機会がありました。その方は航空自衛官OBで、防府の町の上空を初めて飛んだ航空学生の頃の思い出を懐かしく話していました。OBは「死ぬほど厳しい!」と話していた訓練でしたが、実際に取材をしてみると、恐ろしい量の課題をテキパキとこなす学生と、厳しいながら静かに見守る教官にイメージが変わりました。
いつか戦闘機のパイロットになって、その後は教官になって防府に戻ってきたいという学生の声に心強さを感じました。


 

ナガサは硬く、柔らかく

2023年1月30日~2023年2月5日放送 
秋田放送 編成局ラジオ放送部 井谷 智太郎

【番組概要】
マタギの里、秋田県北秋田市 阿仁地区には唯一残る鍛冶屋、西根鍛冶店があります。山里で暮らす人々の生活の道具が店先に並び、その中に ”ナガサ”と呼ばれるひと際目を引く打刃物が並んでいます。この”ナガサ”こそがマタギの魂、マタギにとって命の次に大切な道具といわれ、山の中で枝を切り払い、山から授かった獲物を解体し、その肉の塊をマタギ仲間に切り分ける際に用います。更に熊に襲われたときには、ナガサ1本で自分の命を守る役目を果たす究極の狩猟刀、ナガサ。伝統の技法により鉄の棒がナガサに姿を変えていく様は、実に鍛冶職人がマタギの魂を吹き込んでいるかのようです。番組では、マタギを支える道具、ナガサを造る鍛冶職人の想いに迫ります。

【制作意図】
マタギの里に唯一残る鍛冶屋には、鉄と鋼を接着し、叩いて叩いて鉄を鍛える音が毎日響き渡ります。職人にとって一番気をつかうのは「焼き入れ」と「焼き戻し」の作業です。”ナガサ”には、「硬さ」と「柔らかさ」が求められます。どんなに質の良い鋼を使っても「焼き入れ」と「焼き戻し」のバランスが悪いと刃はすぐにボロボロになってしまうからです。わずかな変化を見逃さず、すばやくあせらずにじっくりと刃物を育てる様は、人の育て方に通じる気がします。人を育てるとはどういうことなのか。職人の刃物造りを通して再考する機会になればと思い制作しました。

【制作後記】
鍛冶店での取材を終えた数日後、伝統工芸のイベントに出展するということで挨拶に伺いました。その日は、小学生が校外学習で職人にたまたま取材しているところで、とっさに録音機をまわしました。その時に語った職人の声は、取材に訪れた際に職人が緊張した面持ちで語った話よりも、今回のテーマの核心に迫る話でした。今回の取材体験を通して、良い音、核心になる声というのは、想定外の場面にも隠されているのだと感じ、これからの取材姿勢に活かしたいと思いました。

継承される競り人の声-越前がにの要石-

2023年1月24日~2023年1月29日放送 
福井放送 報道制作局制作部 増谷寧々

【番組概要】
日本海に面する福井県越前町。越前ガニの最大漁港です。ここでは福井が誇る冬の味覚の王者、越前がにの競りが行われ、解禁されたあとは、特に盛り上がります。競りをするのは、越前町漁業協同組合の職員のみ。年々数も減って、今は4人しかいません。30代の競り人が多い中で、今、この町で生まれ育った26歳の八田航さんが、先輩の姿を追っています。競りには教科書がなく、見て盗む。そして経験。2年目の今、責任を感じながら、漁師が命がけで獲った魚やカニを、仲買人にどれだけいい値段で売り渡すか、かけひきの場に立っています。特に毎年11月7日「おりぞめ」と呼ばれる初競りの日は経験を積んだ競り人でも緊張します。さまざまな基準をクリアしたカニだけに与えられる称号、最高級の越前がに「極」は特に注目が集まります。越前町には料亭も多数あり、料亭を営む人たちにとっても越前がには無くてはならない存在で、ふるさとの宝として大切に守られています。この時期に威勢の競り人の声がないと、越前がにが届かない。この声がないと越前町ではないと言っても過言ではありません。思いをのせた声が今日も漁師まちに響きわたっています。

【制作意図】
福井といえば「越前がに」。全国にも名を轟かす冬の食の恵だが、毎年メディアで報道されるのは越前がにそのものです。その裏に隠されているのは命がけで戦う海の男たち。漁師はもちろんだが、なかなかスポットが当たらない競り人も越前がにという福井のブランドを絶やさぬように盛り上げています。町で取材をしていても、「競りの声がないと越前がにが届かない」という意見が。高齢化も進み、売り手・買い手も年齢層が高くなる中、20代の若き競り人が地元を盛り上げたいと立ち上がりました。「野球で言うと競り人はピッチャーだ。自分で采配をふる責任のあるポジションである」と話していました。1人ひとりがプライドをもって戦う様子、町を、声を継承していく様を感じていただけると幸いです。

【制作後記】
競りの声は、福井で生まれ育った私が聞いても何と言っているのかわかりません。聞き取れるのは単語くらい。ただ、わからなくても、情熱だけは不思議と伝わってきます。するどい目つき、激しく威勢のいい声、緊張感。まさに競り人と仲買の戦いの場で圧倒されます。コロナ禍でなかなか声を出すのが制限される中、前を向いて継承していく様子を見て、守っていくべき宝だなと感じました。

2023年3月 8日 (水)

世界に1つだけの子供平和記念塔

2023年1月16日~2023年1月22日放送 
四国放送 ラジオ編成制作部 芝田和寿

【番組概要】
昭和23年、徳島の子どもたちが世界中に呼びかけて作られた平和の塔が徳島市にある。それが「子供平和記念塔」。高さは約4,6メートル。てっぺんにある噴水用のブロンズから地元では「小便小僧」の塔として知られる。表面に散りばめられた小石は国内の小中学生だけでなく、アメリカの子供たちからも贈られたもの。日本とアメリカの子供による平和共同プロジェクトだったが、数年後には経費がかかるとの理由から噴水の水は止められる。傷みはすすみ、茶色い錆に覆われた塔の存在は忘れ去られていく・・「子どもたちの手による平和記念塔は世界平和と友情の象徴、世界でも例がない」と
訴えるのはカナダ出身のモートン常慈さん(徳島大学准教授)。日本文化と歴史の専門家で、塔が建設された詳しい経緯を調べるも手がかりはなかなか得られない。コロナ禍でもアメリカの図書館などのデジタル検索で糸口をたどり、論文にまとめた。原動力となったのは、日本軍の捕虜となった祖父アルバートさん。「死の鉄道」と恐れられたタイ・ビルマ鉄道の建設に従事、 その生活を小さな手帳に
記していた。終戦まで耐え抜き、帰国を果たした祖父。「人への敬意と友好の精神が不可欠」との言葉が平和記念塔の精神と重なる。 

【制作意図】
ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ紛争や虐待、暴力や差別のニュースは毎日のように。
人間はなぜ、他人を価値のないようなものとして扱えるのか・・・
平和塔の重要性を訴えながら、関係各所をあたって調査を続けるも、なかなか成果が得られないモートン先生を見つめるたび、70年以上の年月とともに、戦争は人々の心の中でも「風化」していることを痛感する。戦争の悲惨さ、平和のありがたさ、そのための国際友情の大切さが叫ばれている今こそ
徳島に遺され、忘れ去られた子供平和記念塔の意義を再認識する時であると考える。

【制作後記】
コロナ禍で思うような調査ができないでいたが、国会図書館のデジタルアーカイブ検索で新たな発見があったほか、アメリカの図書館、赤十字とのやりとりもようやく再開した。
今後、小石を送ったアメリカ人へ徳島県知事が送ったとされる礼状や、石の輸送保管に関わる資料が発見されれば、塔建設のいきさつが劇的に解明される可能性がある。私にはこの塔が、オスカーワイルドの短編小説「幸福の王子」の像と重なる。像を飾る金箔や宝石を悲しみや苦労の中にある人に分け与えた末、汚れてみすぼらしくなってしまった像は市民によって取り外され、溶鉱炉で溶かされてしまう。
子供平和記念塔もそうならない間に・・
年月とともに、心の中で「風化」しかけた平和の誓い、国際友情の証を
今後もモートン先生と追い続け、 伝え続ける。

 

半世紀以上の歴史を持つ録音構成番組。全国の放送局がその土地ならではの風俗をそこでしか聞くことのできない音とともに紹介します。

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