2020年9月15日 (火)

母がくれた宝のコロッケ

令和2年 録音風物誌番組コンクール 最優秀賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年10月5
日~2020年10月11日放送 
山梨放送 小林奈緒

【番組概要】
山梨県甲州市の小さな惣菜店「ほっこりや」。看板メニューは、その名も“ばくだんコロッケ”です。ソフトボール大の特大コロッケには、山梨で馴染みのある馬肉がたっぷりと使われており、1日に300個近くが完売するといいます。店主の松崎しず江さん(64歳)は、精肉店の娘として生まれ、
50年に渡って愛され続ける地域の味を守っています。しかし、現在の「ほっこりや」をオープンさせるまでには、幾重もの苦難がありました。番組では、悲しみを乗り越えて「母の味を守る」と決意したしず江さんの熱い思いと、人々を虜にする“ばくだんコロッケ”の秘密に迫りました。


【制作意図】
地域で50年に渡って親しまれているめずらしいコロッケがあると聞きつけ、早速店に出向きました。まず、その大きさにびっくり!普通のコロッケの3個分はあろうかという、特大サイズのコロッケです。一口食べて、またびっくり!普通のコロッケとは一味違う馬肉の旨味、滑らかなじゃがいもの食感、塩コショウが効いたシンプルな味付けながら、胸焼けせず後を引く美味しさ…
魅力がたっぷり詰まったのルーツを辿るべく、取材を開始しました。コロッケづくりから見えてきたのは、しず江さんの亡き家族への想いと、一緒に歩んできたお客さんとの絆です。心温まる山梨ならではの風物誌を、コロッケが揚がる美味しい音とともにお送りします。

【制作後記】
「ほっこりや」を訪れる常連客はコロッケ愛に溢れていて、取材中もたくさんの笑顔に出会いました。
“ばくだんコロッケ”が50年に渡って地域で親しまれている理由は、その味だけではありません。しず江さんの人柄があってこそなのです。弟と母親を亡くし、悲しみに暮れるしず江さんの背中を押してくれたのは、精肉店時代からの常連客でした。しず江さんは地域で待ってくれている人の想いに応えるため、涙をこらえて自分を奮い立たせたのです。たくさんの愛情が詰まった“ばくだんコロッケ”は、これからも変わらず、地域の味としてずっと受け継がれていくのだと思います。

 

つちのね~宮崎の農林業を支えた鍛冶職人~

令和2年 録音風物誌番組コンクール 優秀賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年9月28
日~2020年10月4日放送 
宮崎放送 ラジオ部 二木真吾

【番組概要】
宮崎県小林市野尻町。ここで小さな鍛冶屋を営む男性がいる。白坂 伊佐男さん(83)。
白坂さんは、17歳の時に鍛冶職人だった兄に弟子入りし、以来約60年、鉄を叩き続けてきた。白坂さんの手掛ける刃物は、家庭で使う包丁はもちろん、農作業で使う鎌やナタ、牛の爪を切る削蹄用のノミなど数百種類に上る。オーダーメイドだからこそ、特殊な刃物を生み出すことができる。白坂さんは、妻のキクエさんと共に、二人三脚でこの小さな鍛冶屋を営んできた。妻が身重の時も、ケンカをして口を聞かない時も、ずっと一緒に鉄を叩き続けてきた。しかし、2015年3月。白坂さんの工場が火事に見舞われ、住宅にも焼失。足が悪かった妻、キクエさんは逃げ遅れ、帰らぬ人となった。もう、鍛冶屋はできない…。そんな白坂さんを再起に導いたのが、ひっきりなしにかかってくる電話だった。「白坂さんの包丁じゃないとダメじゃ…」、「切れなくなったから研いでほしい…」。そして、焼け跡から、愛用していた金づちが見つかった。…これでまた叩ける…。再起を決意した白坂さんは、再び、鉄を叩き始めた…。「家内もまだ一時は、頑張りないよと言ってくれてると思います…」

【制作意図】
 
古き良き物があれば、古き良き音もある。私が頭の中に残っていた古き良き音。それは、小学生の登下校時に聞いていた白坂さんの鍛冶屋から聞こえてくる音だった。私の祖父は、牛の爪を切る削蹄師をしていた。祖父は、白坂さんにオーダーメイドの刃物を依頼していた。私も小さいころから、白坂さん夫婦で一緒に鉄を叩いている姿も見てきたが、4年前、火災により工場、住宅、そして、妻を失ったことを知った。もう、再開はできないだろうなと私自身も思っていたが、数か月後に鍛冶屋を再開したことを知った。まだ、槌の音は消えてない…。 消しちゃいけないと思った。

【制作後記】
 
これまで、何気なく見ていた、聞いていた音だったが、改めて、ラジオの番組として聞こうとしたときに白坂さんの人柄、思いが、どう音だけで伝わるか。ということに終始した取材だった。もちろん、反省点はたくさんある。ただ、これから残ってほしい音であるし、残したい音でもあった。白坂さんご自身も、辛い経験をされている中で、大病を患い、現在も病気と闘いながら鉄を叩き続けている。お客さんのため、亡くなった妻のため、人は人に支えられていることをまじまじと実感させられた。こういう時代だからこそ、こうした、古き良き音は私たち、ラジオディレクターが少しでも、出会い、録音し、音の記憶として、後世に残すことの大切さを感じる番組制作となった。

広島親子三代 この街でビールをつぐ

令和2年 録音風物誌番組コンクール新人賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年9月21
日~2020年9月27日放送 
中国放送 RCCフロンティア 大橋綾乃

【番組概要】
広島市の中心部にある繁華街・流川で、連日行列ができる「ビールスタンド重富」。重富酒店の倉庫の一角に設けられた店舗は、わずか3坪の敷地ながら「うまいビールが飲める店」として、全国からお客さんがやってきます。営業は1日2時間、注文できるのは1人2杯までと、一風変わった業態のお店を始めたのは、重富酒店の社長で、ビールスタンド重富のマスターでもある、重富寛さん。昭和のサーバーと現代のサーバーを使って、同じ銘柄のビールを注ぎ分けます。「うまいビール」の提供を通して、重富さんが目指すこととは。極上のビールの背景に迫ります。

【制作意図】
流川で育ち、地元を愛する重富さん。この地を元気にするには何ができるのかと考え、自分が得意な「うまいビールを注ぐこと」を思い立ったそうです。集客のための店舗なので、営業時間は短く、「仕事じゃなくて趣味だ」と仰っていました。「ビールスタンド重富」は、流川でやることに意味があります。こだわりのビールが飲める人気店、というだけではなく、地元の活気を取り戻すために活動する姿を伝えます。

【制作後記】
重富さんの地元への愛やビールへのこだわりを聞くと、ビール好きな方はもちろん、あまりビールが得意ではないという方にも、訪れてほしい店だと感じました。また、取材中、ビールを飲んだお客さんの、「うま!」という反応がとても印象的でした。うまいものには人を笑顔にする力がある。それを強く実感する取材でした。重富さんが愛する流川の地、ぜひ訪れてみてください。

心の支援を届けたい フードバンク山梨の夏

2020年9月14日~2020年9月20日放送 
山梨放送 ラジオ制作部 小林奈緒

【番組概要】
「先生、何か食べるものない?」
給食のない夏休み、食料を求めてSOSを出した子どもたちがいました。
おなかを空かせた子どもたちを救おうと立ち上がったのが、認定NPO法人「フードバンク山梨」理事長の米山けい子さんです。食品ロスの削減を目的に活動を続ける「フードバンク山梨」は、毎年学校の長期休みに、子どものいる生活困窮世帯に向けた食料支援を行っています。コロナ禍の夏休み、米山さんの元には支援を求める多くの声が寄せられました。
箱いっぱいに詰めた食料に、米山さんはどのような想いを託したのか?支援を受ける世帯のリアルな声とともに、この夏の活動を紹介します。

【制作意図】
現在、日本の子どもの7人に1人が貧困状態にあると言われています。
貧困によって子どもたちの将来が奪われることがあってはならないと、米山さんは強い意志を持って、食料支援活動を続けています。支援する食料はすべて、企業や学校からの寄付で集まったものです。そしてボランティアの手によってひとつひとつ丁寧に箱詰めされ、各家庭に届けられます。
番組では、子どもたちのために奮闘するフードバンク山梨と、実際に支援を受ける家庭の両方の目線から取材をすることで、コロナ禍における食料支援活動の必要性を伝えたいと考えました。

【制作後記】
真夏の倉庫で、汗を流しながら食料を箱詰めするボランティアの姿。
ダンボール箱を開けた瞬間に広がる子どもたちの笑顔。取材で出合った様々な光景が目に焼き付いています。今回、コロナ禍の新たな取り組みとして初めて大学で行われた食料支援では、学生から「もやしばかり食べていた」「最悪の場合は学業をやめる選択もある」といった声も聞かれ、貧困は身近なところで想像以上に深刻化していることを知りました。新型コロナウイルスの影響で、困窮世帯は今後も増えることが予想されますが、子どもたちや学生のとびきりの笑顔から、フードバンク山梨の食料支援が生きる活力に繋がっていることを実感しました。

2020年8月27日 (木)

夏をおいしくする音

2020年9月7日~2020年9月13日放送 
信越放送 ラジオ局編成制作部 生田明子

【番組概要】
すいか売り場のすいかを前にポンポンと叩き、どれがおいしいかを聞き比べる。誰もが、1度は経験したことがあるのではないでしょうか?でも、皆さん、ほんとにおいしいすいかの音を知っていますか?そしてその音をしっかり聞き分けていますか?すいかの生産者は、出荷する前に「ぽんぽん」と表面を叩き、その音によって中身の品質を判断します。本来なら切って甘さを確かめたいところですが、1玉で販売している以上、そうもいきません。生産者は、この「ポンポン」という音の高低を聞き分け、未熟なのか、熟しすぎたのか、おいしいすいかなのかを判別します。ただ、一般人には聞き分けにくいのが実状です。そこで、この番組では「おいしい」と判断されるすいかの音は、どんな音なのか? 生産者と、絶対音感を持つ音楽のプロを訪ね信州の夏の特産品すいかのおいしさに「音」から迫ります。

【制作意図】
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、いわゆる三密にならない環境での取材先を選定する中「畑」に行きつきました。毎年1万8000個ものすいかを出荷する小野さんのすいか畑はあまりに広大で、3密とは程遠い環境でした。また外出自粛ムードの中、自宅での食事を「充実させたい」というニーズがある中で信州自慢の逸品を一人でも多くの方に知って頂き、おいしいという幸せを家庭で味わって頂きたいという思いで制作しました。

【制作後記】
今回実験をしたすいかの品種は「祭ばやし777(スリーセブン)」。お祭り気分で夏を楽しめるような、縁起の良い名前がついています。売り場ですいかの音を確かめる場合は、ぜひ番組で紹介した曲をイヤホンで聴いた直後に、すいかをたたいて選んで頂けたらと思います。品種の違いや、すいかが2段に重ねられている状況や、お皿にのっている場合などのちょっとした環境の違いで音が少しずつ変わってしまうので、そのあたりはご注意下さい。核家族化がすすむ中、スーパーなどで並ぶすいかの大半は、カットしたものが多くなってしまいました。が、すいかは、追熟しない作物。一定期間おいても甘さが増すことはなく、劣化していきます。そしてカットしたほうが、劣化はどうしても進んでしまいます。ぜひ、すいかを一玉買って、音も味も楽しんでみてください。

 

2020年8月20日 (木)

津田演奏堂ラストソング~111年のありがとう

2020年8月31日~2020年9月6日放送 
南海放送 メディアセンター 植田 竜一

【番組概要】
「歳には勝てない…」
創業111年を迎えるレコード店・津田演奏堂が6月30日に閉店しました。名だたる演歌歌手が来店し、街頭キャンペーンやレコードの手売りなどをおこなってきた愛媛・四国を代表する老舗店です。
最終日の津田演奏堂に密着取材し、聞こえてくるすべての音を録音しました。4代目店主の津田安俊さんと別れを惜しむお客さんとの会話、店を閉める最後の瞬間のシャッターの音…。
そして、閉店間際に店主の津田さんがとりだしたのは傷だらけのレコードでした。70年前の電気蓄音機の針を落とした瞬間、店内は時空を超えた雰囲気に。津田演奏堂の最後の1曲「ラストソング」とは―。

【制作意図】
創業111年の音を残さなければもう二度と私たちの耳に届くことはないということ。また、レコード店と地方都市を取り巻く環境について改めて考えてみたかったこと。この2つの動機が津田演奏堂の最後の瞬間を記録しようと思ったきっかけです。そして同時に、店内に置かれている電気蓄音機を使ってかける最後の1曲は何が選ばれるのか知りたかったという思いもありました。何よりも普段から、私たちを取り巻く環境の変化、つまり人口減少が進む地方に住むこととCD・レコード離れが進む音楽シーンに何か重なるものを感じていました。それはいったい何なのか。
津田演奏堂を結節点として考えてみようと試みました。

【制作後記】
チリチリとした傷だらけのレコードが70年前の電気蓄音機によってノイズだらけの音色として店内に響き渡る。現代の高音質に慣れた人の価値観からすると、ともすれば「不良品」と言われるレベルです。店主の津田さんは「人は何もかも高音質を追い求めて柔らかさ、あたたかみを忘れた」と寂しげに語ってくれました。一方で、津田さんの言葉は音楽の高音質化だけでなく、便利や合理化を追い求める私たちの日常生活全般に言えることなのではないのか。
津田演奏堂の「不良品」レコードによるラストソングをどうとらえるか。改めて考えさせられます。

天然ドジョウのつぶやき

2020年8月24日~2020年8月30日放送 
山形放送 制作部 結城義則

【番組概要】
2020年夏―。辺りがまだ薄暗い午前4時半。山形県山辺町の水田わきの水路に、多田秀逸さん(69)の姿が…。水の流れの中から金網の仕掛けを引き上げました。ドジョウを捕るための仕掛けです。「ドジョウは少しだけ、ほとんどがハヤの稚魚」。残念ながらこの日は〝不漁〟でした。自然豊かな山辺町に生まれ育った多田さんはコメの専業農家です。おいしいコメ作りの傍ら、ドジョウ捕りも続けていますが、最近はその姿がめっきり減ってしまったと言います。ドジョウの棲み処の水路が、圃場整備に伴って土からコンクリートへと変わったことなど、生息環境が変化したためではないかと多田さんはみています。量は減っているものの、多田さんが捕るドジョウは町内の産直施設の目玉商品です。今シーズンも待ちかねた常連客が買い求めに訪れていました。そしてその売り場にいた多田さんは、客にこう述べていました。「たくさん食べてください、貴重品だから。来年は(ドジョウ捕り)止めてしまうかもしれない…捕れなくて…」。

【制作意図】
多田さんのドジョウ捕りを初めて取材したのは6年前、2014年の夏です。当時は、縦40センチ、横30センチほどの大きさの袋状の仕掛けいっぱいにドジョウが掛かっていましたが、今回の取材では計5か所の仕掛けの設置場所すべてで、〝大漁〟の場面に出くわすことはできませんでした。それでも、ハヤやナマズなどの稚魚と一緒に、例年よりも数は少ないながら、天然ドジョウの姿は確認しました。そして一連の取材のなかで気になったのが、ドジョウの群れから聞こえてくる〝音〟です。「ひょっとしたらドジョウの鳴き声…?」そんな思いを抱きつつ、専門家に聞いたところ、ドジョウは群れのなかで身を隠そうとする場合などに〝音〟を出すことが分かりました。環境の変化とともにドジョウの姿が年々減っているという現状と、まるで何かをつぶやいているようにも聞こえるドジョウの〝音〟を広く伝えたいと思いました。

【制作後記】
多田さんは、天然ドジョウを捕まえた後、水槽のなかに2、3日入れて〝泥〟を吐かせ、
町内の産直施設に出荷しています。毎年、楽しみにしているという常連客は「臭みがない」と
語り、おすすめの食べ方はゴボウと一緒に天ぷらにすること。家族全員で晩ごはんの
おかずとして食べていると教えてくれました。一方、多田さんはどんな食べ方を
しているのか尋ねたところ「ドジョウはまったく食べない。捕るのが専門」という答えが
返ってきました。ドジョウ捕り名人であっても、その〝味〟についてはあまり得意ではない
ようでした。

2020年8月 7日 (金)

地元に愛され半世紀、老舗スーパーのスーパーコミュニケーション

2020年8月17日~2020年8月23日放送 
大分放送 ラジオ制作部 北里邦寿

【番組概要】
大分県臼杵市野津町。創業50年「スーパーフミヤ」には、地域に愛されるスーパーマーケットです。野菜、果物、鮮魚、精肉、日用品にくわえて、社長の中島究(きわむ)さん79歳がお客さんひとりひとりにあいさつ、声掛けをするひとなつっこさが魅力なんです。店によればかならず中島さんが笑顔で声をかけてくれます。遠く離れた人たちもふるさとに戻り気づく昔と変わらぬスーパーフミヤでの語らいがあります。今、臼杵市野津の人たちはこのコミュニケーションこそが、地元が誇れる地元の魅力として、スーパーフミヤの中島さんを移住促進のPRのモデルにしました。そのポスターには、「スナックもない!バルもないけど、スーパーがある!これぞ、スーパーコミュニケーション」との文字が踊ります。今のご時世、当たり前のようで当たり前ではない!?心をつなぐ田舎町のスーパーのふれあいの日々をお届けします。

【制作意図】
時は新型コロナがはびこる世の中。ディスタンスはしかりですが、地方のふれあいコミュニケーションは世代をこえて、そこに築かれてきたことを忘れてはなりません。

【制作後記】
取材日は7月21日火曜日、土用の丑の日。朝の開店、常連客からあいさつがわりに、「きょうはうなぎがうれるでー」。「売れんと困るんや~。」と返す社長。また火曜は‟95円市”ということで週で一番お客も多い。「こんな時に栄養とって元気にならんで!どうするんかえ!!」奥さんが鮮魚コーナーでひとりひとりに声をかける。「そうやぁ。せっかくやけんなぁ。」とお客さん。「毎度あり~ありがとうね! あ、うなぎのたれ買わんで、どうする~。せっかくやのに~。」日々、お互い助け合っている間柄だからこその信頼関係。消毒、マスク、ディスタンスともどかしい中での取材ではありましたが、目の前で広がる、おそらく半世紀繰り広げられてきたやりとりを目にすると、買い物ってこんなに楽しいものだったっけ、なつかしくもうらやましい気持ちが込み上げてきます。たぶんまずは、この土地を離れた地元の人が気づいたのでしょうか、このやりとりは、まさに「スーパーコミュニケーション」だと。

窯の火は消えない

2020年8月10日~2020年8月16日放送 
琉球放送 ラジオ本部編成制作部 久田友也

【番組概要】
沖縄を代表する伝統工芸、壺屋焼きは、ガスや灯油の窯が普及するまで、登り窯にマツの木を燃やして焼いていた。そのマツの木の恵みに感謝する拝みの行事が「ヒーマーチ」である。焼物に携わる人たちが多い壺屋の街で、伝統の拝みの口上、お供え物の並べ方、作法をすべて把握している婦人会のご長寿、與那嶺繁子さんは頼もしい存在。350年近く続く焼物の街、壺屋の発展を水の神、窯の神に祈る。他方、壺屋随一の人気の窯元の7代目、高江洲尚平さんは伝統のシーサーづくりに取り組んでいた。先達の伝統の技を盗もうと努力しながらも、「なぜシーサーを造るのか」を意識することが多いという。

【制作意図】
沖縄の観光業は新型コロナウイルス感染症の流行で壊滅的な打撃を受けている。壺屋の商売繁盛を祈る行事が開かれることを知り見学した「ヒーマーチ」のなかで、、新しいデザインも取り入れる人気の窯元は厳しい情勢のなかでも窯をこれまで通り稼働させていることを知った。大きな音がするほどの猛火が、窯元の元気を感じさせてくれるのではないかと期待して取り組んだ。

【制作後記】
工房は小さな一つの空間で、工場扇や釉薬を製造するミキサーといった大きな音の影響を受けやすい環境に悩まされた。一人ひとりの作業もばらばらで、何かの録音中に背後で突然土を叩きつけ始めたりと、なかなか録音が難しい取材対象だった。厳しい環境下でもなるべくイメージ通りの音がとれるよう録音の技能を向上させたい。

和の音、つづく

2020年8月3日~2020年8月9日放送 
東北放送 ラジオ局制作部 小笠原 悠

【番組概要】
伸びのある和楽器の響き。その音色を親子三代で生み出してきた老舗の和楽器店が、仙台にあります。大正時代から95年続く「熊谷楽器店」。現在は、三代目の熊谷直樹さんが、三味線や琴の製造、修理などを一手に担っています。店には、三味線の皮張りや琴の糸締めなど、祖父の代から変わらない"手仕事"の音が響きます。職人歴30年のベテランですが、「まだまだ勉強中。少しでも良い音にしたい」と語る熊谷さん。親子三代で繋いできた楽器作りへの思いとは。

【制作意図】
美しくて、どこか懐かしさも感じる三味線や琴の響き。その原点にはどんな音があるのか知りたいと、熊谷楽器店さんを取材しました。年季の入った三味線の張替え台にロープが掛けられる音、絶妙な力加減で琴の糸を締める音…機械ではなく、職人の手と思いが重なって出来上がる「和の音」を、ラジオを通して伝えたいと思いました。

【制作後記】
特にフォーカスしたかったのが、三味線の皮張り作業。15分間気を緩めず、指先に神経を集中する職人の姿をいかに音だけで表現するか。熊谷さんの息づかいも取り入れながら、臨場感が出る様こだわりました。

半世紀以上の歴史を持つ録音構成番組。全国の放送局がその土地ならではの風俗をそこでしか聞くことのできない音とともに紹介します。

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