2020年12月11日 (金)

全力プレーのそばで輝く

2020年11月16日~2020年11月22日放送 
熊本放送 ラジオ制作部 上妻卓実

【番組概要】
スポーツの中でも特にスピード感あふれるバスケットボール。短い時間内に次々と得点が加算されたり、選手の交代やタイムアウトと呼ばれる試合を中断して作戦を練る時間など、絶え間なく状況が変化するバスケットボール。こんなにも複雑なスポーツは、どのようにして成り立っているのでしょうか。その答えは、コート横1mにありました。4人の白いジャンパー姿の彼らはテーブルオフィシャルズ、通称TO。試合時間や得点の管理をはじめ、ルール全般を司る、バスケットボールの試合に欠かせない存在です。そんなTOを熊本で8年間続けている若杉玲子さん48歳。小学生の頃にバスケットボールと出会い手、指導者、審判を経験してきました。常にコートの中で情熱を注いできた若杉さんですが、現在はコートの外からTOとして試合を支える存在に。番組では、TOの知られざる仕事と常にバスケットボールに挑戦し続ける若杉さんの人柄に迫ります。

【制作意図】
 スポーツをしている多くの人は、年齢による衰えやケガなど身体的な理由から現場を退くことを決断します。また、「本当は好きだし、もっと挑戦したかった」、「第一線で活躍する若手がうらやましい」などの気持ちを抱えながら、引退の道を選んだ人は、スポーツに限らず仕事や学業など様々な分野でいるのではないでしょうか。番組では、バスケットボールの分野で、選手、指導者、審判、そしてテーブルオフィシャルと立場を変えながらも挑戦を続ける若杉さんを取材しました。「挑戦を続けることで輝くことができる」、そんな彼女の生き方はきっと多くの人に勇気と希望を与えることでしょう。

【制作後記】
 試合が始まれば誰よりも声を出し、きびきびと仕事をこなす若杉さんですが、試合終了後、「面白い試合内容でしたね!」と話しかけると、「試合の内容は全く覚えていません!」と満面の笑み。さらに、「試合中はTOに精一杯で余裕がないんです」と続けます。予想外の返答に思わず驚いてしましました。プレーするだけがバスケットボールではない。立場を変えながらも挑戦を続け、100%夢中になれる瞬間こそ一番輝きを発揮するのではないかと今回の制作を通して感じました。

 

屋久島民謡 まつばんだ

2020年11月23日~2020年11月29日放送 
南日本放送 ラジオ制作部 七枝 大典

【番組概要】
1993年。世界自然遺産に登録された「屋久島」は太古から続く自然と その自然と共存するため、人々は様々な知恵を出し合い、暮らしてきました。この屋久島には「まつばんだ」という民謡があります。「屋久の御岳を愚かに思うなよ 金の蔵よりゃなお宝」は、この歌の象徴的な歌詞。音階は琉球音階に似ていますが、いつのころから歌われているのか、だれがつくったのか。そして曲のタイトルである「まつばんだ」の意味を知る人は いません。記録にもありません。しかし、「この歌こそ屋久島の宝」と信じて、後世のために歌い継いでいる人たちがいます。先日、地元の有志で動画が作成され、インターネットでも公開されました。歌に込めた思いや自然との共存について伺うと共に、屋久島は育んできた文化の1つをご紹介します。

【制作意図】
鹿児島県は南北およそ600km。ここには様々な文化や風習、そして歌が残っています。特に南方の島々には サンシンという三味線に似た楽器と歌声で残る「島唄」という素晴らしい文化が残っているのですが 世界遺産の島・屋久島には、オリジナルの楽器は存在せず、代々歌い継がれている歌も ほとんどないという事を知りました。数少ない屋久島民謡「まつばんだ」を多くの方に知っていただきたい、そして途絶えようとしている民謡を独自の解釈で歌う方や集う方を紹介することで この歌のルーツを検証する機会のきっかけの1つとしたいという思いで取材しました。

【制作後記】
ほかの局の皆さんと同じくコロナの影響で取材の目途を立てることができず、
しかも屋久島町から「入島自粛」が発表されたため、取材予定を立てるのは大変難しく、
ようやく取材ができたのが10月下旬。そこからバタバタと…。そもそも、今回のテーマである「まつばんだ」という言葉と出会ったのは自分が小学3年生のころの夏休みに屋久島で見かけた「まつばんだ交通」という看板。地元の観光会社の車だったのですが、それ以来「まつばんだ」という言葉が心のどこかに残っていました。今から2年ほど前に 屋久島に特化した番組を担当することになり まつばんだを調べたところ、民謡らしいことが判明。しかも途絶えかけているという事が分かり 今回取材させていただいた次第です。今回、心の閊え(?)が ようやく解けたのですが、取材をきっかけに知り合った屋久島の方々から頻繁に「まつばんだ情報」をいただき、ありがたい限りです。

 

2020年11月 2日 (月)

りんごと木村さんの、はしご。

2020年11月9日~2020年11月15日放送 
青森放送 制作局ラジオ制作部 工藤凪紗

【番組概要】
ちょうどりんご収穫の最盛期を迎える青森県。美味しいりんごを育てるには農家さんと、りんご作業を支える道具が必要です。その道具の中でも1年中使うのが「りんご梯子」。番組では大正から令和まで梯子の角度や形を変えずに作り続けている、木村木工所の4代目、木村雄治さんと「木村式」とよばれる「りんご梯子」に迫りました。

【制作意図】
青森、と聞いて最初に思い浮かべるのは「りんご」ではないでしょうか。美味しいりんごを育てるには農家さんと、りんご作業を支える道具があってのことです。その道具作りをしている職人さんにスポットを当てたい!という思いから今回番組を制作しました。職人さんの道具作りのこだわりや思いをラジオを通して多くの人に伝えたいです。聴いた後に食べるりんごは味がちょっぴり違うかもしれません。

【制作後記】
今回取材をして感じたのは、木村さんの優しさです。忙しい中梯子の製作過程も含め何時間もの取材に笑顔で応じていました。また驚いたのは木村さんの梯子作りへの細やかな気づかい。材料に使う青森ヒバはより丈夫な梯子を作りたいという思いから木目がまっすぐなものを選び、金具を打つ場所から、梯子の角度に至るまで農家さんが使うのを第一に考えて製作をしています。出来た梯子は温かみがあり、なめらかな手触りなのに、とっても頑丈。まるで木村さんの人柄がそのまま表れたようでした。こんなにも工夫と時間をかけているのにも関わらず「農家さんが買うものだから」と主流のアルミ製のりんご梯子よりも値段が高くならないようにしているそうです。少しでも木村さんと、はしごの良さが伝われば嬉しいです。

下町に刻み続ける職人の技と人情~江戸切子

2020年11月2日~2020年11月8日放送 
文化放送 放送事業本部 編成局 制作部 住田芙雪

【番組概要】
江戸時代末期から江戸・東京で作られるガラス工芸品、江戸切子。グラスや皿などといったガラス製品の表面をカットし、手作業で切り出された文様は、曲線を多用した独特で繊細なデザインが多く、光の当たり方によって様々に表情を変え、煌めきます。江戸川区で「堀口切子」を営む堀口徹さんは、江戸切子職人だった祖父の影響でこの道にすすみました。自らも弟子を取り、次の世代へ技術を繋いでいく堀口さん。新しいものを柔軟に受け入れ、江戸切子の歴史を紡いできた職人たちの思いに迫りました。

【制作意図】
私の祖父は江戸切子職人でした。工場から聞こえてくるガラスをカットする音は、日常の一部として記憶に刻み込まれています。人が行きかう街の雑踏ではなく、下町風情溢れる東京の町に響き続ける音を録りたい。そう考え、堀口さんのもとを訪ねると、伝統を継承しつつも変化を受け入れ進み続ける江戸切子の根底にあるものが見えてきました。

【制作後記】
堀口さんは、職人気質な江戸切子に対する熱意と、弟子たちの育成や江戸切子の将来像ついて俯瞰的に語る経営者の視点を兼ね備えた方でした。印象的だったのは「江戸切子の職人は一つのチームとなって進んでいる」という言葉。職人たちがそれぞれのやり方で江戸切子の魅力を模索していくことで、相互作用となり江戸切子全体のファンを増やしている。その軸には歴史ある江戸切子の技術が脈々と受け継がれています。堀口さんのように視野を広く持ち技術を継承する職人たちの足跡が、江戸切子の未来を作っているのだと感じました。

2020年10月16日 (金)

夢を奏でる魔法の手

2020年10月26日~2020年11月1日放送 
RKB毎日放送 ラジオ局制作部 江里口雄介

【番組概要】
福岡県福岡市在住のプロパフォーマー、なかしま拓さん24歳。両手を重ねて空洞を作り、そこに息を吹き込んで、楽器のように操る手笛奏者。学生時代に音楽の道を志すも、楽器を買うお金がなく、手笛にたどり着いたという。毎日のように、福岡随一の商業都市天神に出かけては街角で演奏を続けてきた。いつしかそれは、天神の街の見慣れた風景になっていた。また、その活動が注目され、昨年には、アメリカ、ニューヨークのアポロシアターに招かれ、海外のパフォーマーからも注目される存在になっていた。順調に歩み始めたプロパフォーマーの道だったが、突如として状況は一変する。新型コロナウィルス・・・街角での演奏は、できなくなり、仕事の依頼もなくなってしまった。それでも、彼には、この状況に屈するわけにはいかない理由があった。魔法のように手笛を奏でる新進気鋭のパフォーマー、その挑戦と苦悩を追った。

【制作意図】
新型コロナウィルスの影響で、各業界は不振に陥っている。商店や飲食店、サービス業など、経営破綻を招き、連日ニュースとなっている。だが、そんなニュースにもならない所でも、新型コロナウィルスへの挑戦や、葛藤、日々戦っている人たちがいる。今回取り上げたパフォーマーの世界も、その一つであろうと思う。そしてそれは、天神という街の風景の一部。普段そこまで注目することはなくても、無くなるととなんだか物足りない。彼らが、今どんな思いで戦っているのか、そして何より、そんな彼らを応援したい。パフォーマンスのチカラを信じている彼らと同じように、ラジオのチカラを信じて制作しました。

【制作後記】
何より、主人公である、なかしま拓さんの純粋な気持ちに、心惹かれました。一つ一つの言葉を丁寧にしゃべる彼の口調に、手笛への熱意、こどもたちへ、成功と苦労、すべて含めて夢の大切さを伝えたいという彼の想いの強さを知ることができました。その実直な思いが、パフォーマー仲間や、協力者を惹きつけていることも感じとることができた取材でした。その彼の魅力、想いの強さを、どれだけ本作に詰め込めるか、反映できるか、そこで悩み、制作時間を費やした思います。あわせて音で想像させる表現とは何か、今まで以上に考えさせられた貴重な制作体験になりました。技術スタッフといつもと違う楽しみを味わいながら、録音できました。ありがとうございました。

未来につなぐ鳴り石の音

2020年10月19日~2020年10月25日放送 
山陰放送 コンテンツ局制作部 安藤健二

【番組概要】
鳥取県琴浦町にある、「鳴り石の浜」は、楕円形の丸い石が一面に広がる珍しい海岸です。この丸い石どおしが、打ち寄せる波にもまれ、転がりぶつかりあうことで、「カラコロ」という音を立てます。この音は、波の強さ波打ち際に集まる石の大きさによって変わります。訪れるたび、その音は違い、様々な表情を見せてくれます。また、この海岸、ゴミという存在をわすれてしまうぐらい、ゴミがありません。近くに住む、岩田弘さんは、この海岸をゴミのない、自然のままの海岸にと、約60年間、清掃活動をされてきました。そして、この海岸を、新たな観光地にしようと約10年前「鳴り石の浜」プロジェクトが立ち上がりました。様々な活動を通し今では、町を代表する観光地になりました。プロジェクトメンバーの今の、上田啓悟さんの思いとは。

【制作意図】
カラカラ、コロコロと心地よい音、いつまでも聞いていられます。そして、この海を、音を、守っている人たちがいます。その方たちの想いとともに、この海岸の波打ち際で聞いていかの気分で、鳴り石の音をたぷりと届けたいとおもいます。また、天候、気候によって地響きにもにた「ゴロゴロ」という力強い音の日もあり、音の違いにも触れて頂きたい。

【制作後記】
取材で、鳴り石の浜に行くたびに、鳴り石の音が違い、時には、力強い音。この音の違いに驚きました。そして、この鳴り石の浜を、守るべく多くの人が様々な取り組みを行い、また、新たなコミュニティーも生まれ地域の活動拠点となっています。番組では、活動についてなど十分にお伝えできてませんが、この「鳴り石の音」をたっぷりとお聴き頂けたらと思います。

2020年10月 8日 (木)

ラジオ登山~蝦夷富士・羊蹄~

2020年10月12日~2020年10月18日放送 
北海道放送 ラジオ局制作部(パーソナリティ)山根あゆみ

【番組概要】
北海道を代表する山のひとつ、羊蹄山。標高1898m。日本百名山のひとつで、富士山のような美しい立ち姿から「蝦夷富士」と呼ばれる、全国から多くの登山客が訪れる人気の山です。しかし、今年は新型コロナウィルスの影響で外出自粛の意識が強まったことで、登山者にどのような変化をもたらせたのか。実際に登り、今の羊蹄山の様子を伝えます。今年は登山に行きたいけれど行けなかった方も、登山に興味がない方も、一緒に登った気持ちになって羊蹄山の魅力、登山の楽しさを感じてもらえたらと思います。

【制作意図】
コロナ禍の登山。登山者はどんなことを意識して登っているのでしょうか。また、今年は仕方ないと登山を断念した方へ、さらに普段山に登らない方へも、羊蹄山の大自然と開放感を味わってもらえるような、ラジオから疑似登山ができればと思ってまとめました。ガイドブックには5時間かかる登りを、番組が終わるまでのおよそ10分にまとめたので、展開の早いハイペースラジオ登山になってしまいましたが、羊蹄山の現状だけでなく、鳥の声、登りの辛さ、山小屋でのおもてなし、風の音、登頂の喜び、そういう感覚を耳を通して、肌で感じてもらえると嬉しいです。

【制作後記】
制作を担当させていただいた私は、羊蹄山の麓で生まれ育ち、小学1年生の頃からこの山には何度も登り続けています。いつも登っている時は、疲労感からくる愚痴で頭がいっぱいになったり、自分のことをゆっくり考える、自分と向き合う時間として過ごしていましたが、今回録音機を持って登ったことで、改めて様々な大自然の音に気付くことができました。と同時に、自分の耳で体感した音をそのまま表現することの難しさも痛感しました。
頂上へ着いた時の達成感と登山客の喜びの顔。今年は特に、その喜びが弾けていたように見えました。

2020年9月15日 (火)

母がくれた宝のコロッケ

令和2年 録音風物誌番組コンクール 最優秀賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年10月5
日~2020年10月11日放送 
山梨放送 小林奈緒

【番組概要】
山梨県甲州市の小さな惣菜店「ほっこりや」。看板メニューは、その名も“ばくだんコロッケ”です。ソフトボール大の特大コロッケには、山梨で馴染みのある馬肉がたっぷりと使われており、1日に300個近くが完売するといいます。店主の松崎しず江さん(64歳)は、精肉店の娘として生まれ、
50年に渡って愛され続ける地域の味を守っています。しかし、現在の「ほっこりや」をオープンさせるまでには、幾重もの苦難がありました。番組では、悲しみを乗り越えて「母の味を守る」と決意したしず江さんの熱い思いと、人々を虜にする“ばくだんコロッケ”の秘密に迫りました。


【制作意図】
地域で50年に渡って親しまれているめずらしいコロッケがあると聞きつけ、早速店に出向きました。まず、その大きさにびっくり!普通のコロッケの3個分はあろうかという、特大サイズのコロッケです。一口食べて、またびっくり!普通のコロッケとは一味違う馬肉の旨味、滑らかなじゃがいもの食感、塩コショウが効いたシンプルな味付けながら、胸焼けせず後を引く美味しさ…
魅力がたっぷり詰まったのルーツを辿るべく、取材を開始しました。コロッケづくりから見えてきたのは、しず江さんの亡き家族への想いと、一緒に歩んできたお客さんとの絆です。心温まる山梨ならではの風物誌を、コロッケが揚がる美味しい音とともにお送りします。

【制作後記】
「ほっこりや」を訪れる常連客はコロッケ愛に溢れていて、取材中もたくさんの笑顔に出会いました。
“ばくだんコロッケ”が50年に渡って地域で親しまれている理由は、その味だけではありません。しず江さんの人柄があってこそなのです。弟と母親を亡くし、悲しみに暮れるしず江さんの背中を押してくれたのは、精肉店時代からの常連客でした。しず江さんは地域で待ってくれている人の想いに応えるため、涙をこらえて自分を奮い立たせたのです。たくさんの愛情が詰まった“ばくだんコロッケ”は、これからも変わらず、地域の味としてずっと受け継がれていくのだと思います。

 

つちのね~宮崎の農林業を支えた鍛冶職人~

令和2年 録音風物誌番組コンクール 優秀賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年9月28
日~2020年10月4日放送 
宮崎放送 ラジオ部 二木真吾

【番組概要】
宮崎県小林市野尻町。ここで小さな鍛冶屋を営む男性がいる。白坂 伊佐男さん(83)。
白坂さんは、17歳の時に鍛冶職人だった兄に弟子入りし、以来約60年、鉄を叩き続けてきた。白坂さんの手掛ける刃物は、家庭で使う包丁はもちろん、農作業で使う鎌やナタ、牛の爪を切る削蹄用のノミなど数百種類に上る。オーダーメイドだからこそ、特殊な刃物を生み出すことができる。白坂さんは、妻のキクエさんと共に、二人三脚でこの小さな鍛冶屋を営んできた。妻が身重の時も、ケンカをして口を聞かない時も、ずっと一緒に鉄を叩き続けてきた。しかし、2015年3月。白坂さんの工場が火事に見舞われ、住宅にも焼失。足が悪かった妻、キクエさんは逃げ遅れ、帰らぬ人となった。もう、鍛冶屋はできない…。そんな白坂さんを再起に導いたのが、ひっきりなしにかかってくる電話だった。「白坂さんの包丁じゃないとダメじゃ…」、「切れなくなったから研いでほしい…」。そして、焼け跡から、愛用していた金づちが見つかった。…これでまた叩ける…。再起を決意した白坂さんは、再び、鉄を叩き始めた…。「家内もまだ一時は、頑張りないよと言ってくれてると思います…」

【制作意図】
 
古き良き物があれば、古き良き音もある。私が頭の中に残っていた古き良き音。それは、小学生の登下校時に聞いていた白坂さんの鍛冶屋から聞こえてくる音だった。私の祖父は、牛の爪を切る削蹄師をしていた。祖父は、白坂さんにオーダーメイドの刃物を依頼していた。私も小さいころから、白坂さん夫婦で一緒に鉄を叩いている姿も見てきたが、4年前、火災により工場、住宅、そして、妻を失ったことを知った。もう、再開はできないだろうなと私自身も思っていたが、数か月後に鍛冶屋を再開したことを知った。まだ、槌の音は消えてない…。 消しちゃいけないと思った。

【制作後記】
 
これまで、何気なく見ていた、聞いていた音だったが、改めて、ラジオの番組として聞こうとしたときに白坂さんの人柄、思いが、どう音だけで伝わるか。ということに終始した取材だった。もちろん、反省点はたくさんある。ただ、これから残ってほしい音であるし、残したい音でもあった。白坂さんご自身も、辛い経験をされている中で、大病を患い、現在も病気と闘いながら鉄を叩き続けている。お客さんのため、亡くなった妻のため、人は人に支えられていることをまじまじと実感させられた。こういう時代だからこそ、こうした、古き良き音は私たち、ラジオディレクターが少しでも、出会い、録音し、音の記憶として、後世に残すことの大切さを感じる番組制作となった。

広島親子三代 この街でビールをつぐ

令和2年 録音風物誌番組コンクール新人賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年9月21
日~2020年9月27日放送 
中国放送 RCCフロンティア 大橋綾乃

【番組概要】
広島市の中心部にある繁華街・流川で、連日行列ができる「ビールスタンド重富」。重富酒店の倉庫の一角に設けられた店舗は、わずか3坪の敷地ながら「うまいビールが飲める店」として、全国からお客さんがやってきます。営業は1日2時間、注文できるのは1人2杯までと、一風変わった業態のお店を始めたのは、重富酒店の社長で、ビールスタンド重富のマスターでもある、重富寛さん。昭和のサーバーと現代のサーバーを使って、同じ銘柄のビールを注ぎ分けます。「うまいビール」の提供を通して、重富さんが目指すこととは。極上のビールの背景に迫ります。

【制作意図】
流川で育ち、地元を愛する重富さん。この地を元気にするには何ができるのかと考え、自分が得意な「うまいビールを注ぐこと」を思い立ったそうです。集客のための店舗なので、営業時間は短く、「仕事じゃなくて趣味だ」と仰っていました。「ビールスタンド重富」は、流川でやることに意味があります。こだわりのビールが飲める人気店、というだけではなく、地元の活気を取り戻すために活動する姿を伝えます。

【制作後記】
重富さんの地元への愛やビールへのこだわりを聞くと、ビール好きな方はもちろん、あまりビールが得意ではないという方にも、訪れてほしい店だと感じました。また、取材中、ビールを飲んだお客さんの、「うま!」という反応がとても印象的でした。うまいものには人を笑顔にする力がある。それを強く実感する取材でした。重富さんが愛する流川の地、ぜひ訪れてみてください。

半世紀以上の歴史を持つ録音構成番組。全国の放送局がその土地ならではの風俗をそこでしか聞くことのできない音とともに紹介します。

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