2023年9月22日 (金)

半年前に新幹線が発車します―福井が魅せるおもてなし―

2023年9月11日~2023年9月17日放送 
福井放送 報道制作局制作部 酒井拓海

【番組概要】
2024年春、福井県に北陸新幹線が開業します。
昭和に計画が決定し、平成に工事がはじまり、令和のその列車が到着する。半世紀越しの夢の実現は「100年に1度のビッグチャンス」とも言われていて、芦原温泉駅・福井駅・越前たけふ駅・敦賀駅の県内4駅では、各駅でおもてなしの準備が急ピッチで進んでいます。福井が魅せるおもてなしとは?もし今新幹線が開業したらという想定で、半年前に「音」で旅する新幹線を走らせてみました。芦原温泉駅には、駅名からも分かる通り、開湯140年と歴史ある温泉街があります。新幹線開業に向けて、13の温泉旅館の女将たちが手掛けた新名物・スパークリング日本酒「OKAMI no AWA」。使う米は、女将たちが収穫から田植えまで手掛けた山田錦。ボトルを開ければ、炭酸の音や甘い味わいを楽しめる1杯です。越前たけふ駅の周辺には、700年の歴史を誇る伝統工芸品「越前打刃物」の産声がこだまします。むらがないよう叩き続ける職人技が、切れ味よく長持ちする刃につながります。13の共同工房のタケフナイフビレッジは3年前にリニューアルし、製造工程を間近で見学できます。
半年先取りの福井の「音」の旅をお楽しみください。

【制作意図】
新しい施設が完成したり、名物が誕生したり、カウントダウンイベントも開催されたりと、新幹線開業に沸く福井県を違った目線で紹介したいという思いから制作しました。旅に「音」はつきものです。目的地で聞こえた音や現地の人との会話、さらに、移動中の新幹線の走行音など、音と旅の思い出はリンクしていると私は考えます。ただ紹介するのではなく、新幹線が本当に走ったら…?という期待感も合わせて紹介したいと思い、このような構成にしました。一世一代の大イベントに向けて、観光客をどう楽しんでもらい、また来たいと思ってもらうかと試行錯誤しながら取り組んでいる人たちが福井県にはたくさんいます。そんな思いが乗った渾身の音に耳を傾けて、来年春以降その音を現地で感じたいという人が増えるとうれしいです。

【制作後記】
スパークリング日本酒「OKAMI no AWA」の音を収録する際には、あわら温泉女将の会の副会長立尾清美さんにもボトルのオープンや注ぐシーンなど、協力していただきました。食前酒として飲むのがおすすめということで、ボトルを開けたときの食事が始まるという高揚感をどのように音で伝えられるか、一緒に試行錯誤しました。担当することが決まってから、田植えから収穫までという時間経過を表現するため、田植えの音もふんだんに使いました。タケフナイフビレッジは、800度の鋼を扱うこともあり、工房が熱気に包まれていました。その中で、わずかなズレがないよう、一心不乱に刃物と向き合う職人たちの姿勢に感銘を受けました。工房には、20代や30代の若者の職人も多かったです。越前打刃物には、700年の伝統をこれから受け継いでいく人たちの熱い思いも宿っているとと感じました。
報道記者から制作部に異動し、アナウンサーになって5か月。ラジオ制作もほぼ初めてでしたが、思いを込めて作りました。



若手ワイン醸造家 父の味と共演

2023年9月4日~2023年9月10日放送 
四国放送 ラジオ編成制作部 三浦審也

【番組概要】
徳島県三好市でワイン造りに取り組む井下奈未香さんを紹介します。井下さんは、結婚を機に移住した三好市で、おととし、徳島県内初のワイナリーを設立しました。県内外のブドウを使って個性的なワインを醸造するとともに、休耕地を活用してワイン用のブドウの栽培も行っています。先日行われた、井下さんのワインと板前のお父さんが作る日本料理とのマリアージュを楽しむ催しの模様を取材しました。

【制作意図】
二十代の時にワインに魅せられてソムリエになった井下さんは、「ワインは農作物」の信条のもと、ブドウの栽培から醸造まで手掛け、徳島からワインを発信している新進気鋭のワイン醸造家です。そんな井下さんが、自らのワインの原点、日本料理の板前である父・茂徳さんの味と共演する試みを、ぜひ取材したいと考えました。

【制作後記】
ワインの知識に乏しく、飲んだ経験もさほどない私が、初めて井下さんのワインのひとつ「kilig」を飲んだ時の感動は忘れられません。ブドウそのもののフレッシュさ、果実感が口の中に広がったのです。一方、ご自身が栽培しているまだ若いブドウを使ったワインは強烈なまでに野性的。同じ赤でもこれほど違うものなのかと驚かされました。今回の催しに集まったお客さんのように、井下さんのワインのファンは増えています。「徳島と言えばワイン」と言われる日も、そう遠くないかもしれません。

語り継ぐ夏 ~すみてる少年の8月9日~

2023年8月28日~2023年9月3日放送 
長崎放送 報道制作部 中島千夏

【番組概要】
1945年8月9日11時2分。長崎に投下された一発の原子爆弾により、まちは一瞬にして焦土と化しました。その年の12月までの死者は7万3,884人、負傷者は7万4,909人。奇跡的に生き延びた被爆者の中には、生涯、原爆の後遺症に苦しみ続けた人もいます。背中一面と腕にやけどを負い、「赤い背中の少年」と呼ばれた谷口稜曄(すみてる)さんもその一人です。床ずれで胸はえぐり取られたようになり、皮膚呼吸の出来なくなった体で、被爆の悲惨さを語り続けました。2017年8月、核兵器禁止条約の採択を見届け、88歳の生涯を閉じました。核兵器のない世界を見ることが出来なかったことは言うまでもありません。78年前のあの日、谷口さんはどうやって生き延びたのか。谷口さんの半生を描いた絵本「生きているかぎり語りつづける」(舘林愛 著)の朗読を通して伝えます。

【制作意図】
被爆から78年。台風6号の接近により、長崎市の平和祈念式典は60年ぶりに屋内での縮小開催となり、ほとんどの被爆者が参列できないという異例の8月9日となりました。市内各地で行われるはずだった平和活動も中止を余儀なくされ、国内外から多くの人が長崎の地に集うことはできませんでした。
被爆者の平均年齢は85歳を超えました。被爆者から直接その体験を聞くことの出来ない時代が、そこまできています。被爆者が恐れていることは、ふたたび核が使われること、そして、被爆の実相が忘れ去られてしまうことです。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、北朝鮮のミサイル、中国の核開発…。核兵器使用のリスクが高まるいまだからこそ、被爆者が残した貴重な証言を語り継ぎます。

【制作後記】
朗読のピアノ演奏に協力頂いたのは、長崎県佐世保市在住のピアニスト・重松壮一郎さんです。即興演奏などの独自のスタイルで国内のみならず海外でもライブ活動を行っていて、平和を願うピースコンサートも毎年続けておられます。絵本の朗読を快諾くださった著者の舘林愛さんと重松さんに心から感謝致します。

 

沸く沸く再び、鴨川湯。

2023年8月21日~2023年8月27日放送 
京都放送 ラジオ編成制作局 編成制作部 大坪右弥

【番組概要】
京都市左京区、鴨川近くの住宅街の中にある老舗銭湯”鴨川湯”。1926年に創業し、長らく地域に愛されてきましたが、設備の老朽化や燃料の高騰化などを理由に、2022年9月、無期限の休業を発表します。そこで立ち上がったのが、“銭湯を日本から消さない”をモットーに、銭湯の継業を手掛ける ゆとなみ社 の丹羽悠貴さんと遠藤さくらさん。2023年7月29日に営業再開が決まった鴨川湯。運営を引き継ぐ2人の共同店長の思いと、お客さんの声から"鴨川湯"がどういった場所なのかについて迫ります。

【制作意図】
京都市左京区、鴨川近くの住宅街の中にある老舗銭湯”鴨川湯”。1926年に創業し、長らく地域に愛されてきましたが、設備の老朽化や燃料の高騰化などを理由に、2022年9月、無期限の休業を発表します。そこで立ち上がったのが、“銭湯を日本から消さない”をモットーに、銭湯の継業を手掛ける ゆとなみ社 の丹羽悠貴さんと遠藤さくらさん。2023年7月29日に営業再開が決まった鴨川湯。運営を引き継ぐ2人の共同店長の思いと、お客さんの声から"鴨川湯"がどういった場所なのかについて迫ります。

【制作後記】
鴨川湯復活への関心は高く、テレビや新聞でも取り上げられていました。この番組を制作するにあたり、ラジオではどのようなアプローチがいいのかを考えました。録音風物詩のテーマである音と改装作業中に声をかけてくれる近くに住む人の声や営業再開を待ち望んでいたお客さんの声を軸に、鴨川湯が地域の人、訪れる人にとって愛されていることが分かるような構成にしました。また、番組内における音の工夫として、休業が発表されたことが分かったときは水滴の音で静けさを。営業を再開したときには、水がジャバジャバと流れる音を入れ活気が戻ってきた様子を表現し、ストーリーと音がリンクするようにしました。




夏・学校の蛇口から

2023年8月14日~2023年8月20日放送 
静岡放送 ラジオ局オーディオコンテンツセンター 柳澤 亜弓

【番組概要】
お茶どころ・静岡県。その静岡県の中でも茶葉の栽培面積・出荷額2位を誇る島田市の一部小中学校では夏限定で蛇口から緑茶が出ます。15年以上続く島田市の取り組みで、島田市のこどもたちにとって学校の蛇口から出るのは「緑茶」。「全部の学校の蛇口から緑茶が出ると思っていた〜!」と話す子が何人もいました。夏、こどもたちがどのように学校で地元の緑茶を味わうのか取材しました。

【制作意図】
静岡県ではフラリと入った飲食店で出してくれるのは水ではなく美味しい緑茶、というのはよくあることですし、学校の給食でも茶葉から淹れたきれいな緑色のお茶が出ます。静岡県民にとって美味しい緑茶というのは、ありがたいことに小さい頃から当たり前のように飲めるごくごく身近な存在です。そんな静岡県内でもあまり知られていないのが、島田市の一部学校の蛇口から夏限定で冷たい緑茶が出るということ。水泳の授業の後、暑い部活の練習の合間に、島田市のこどもたちが飲むのは地元の茶葉で淹れた冷たい緑茶。夏ならではの風景とともに、こどもたちが蛇口から緑茶を注ぐ静岡ならではの夏の音を楽しんでいただけたらと思います。

【制作後記】
「学校の蛇口からでるお茶の味はどう?」と聞くと、こどもたちは「すごくおいしい〜!」「冷たい〜!」「甘い〜!」といろいろな表現でその味や美味しさを表現してくれました。キャッキャ笑いながら・・・!休み時間、部活の練習の合間、学校の蛇口から注いだ緑茶を飲んでは
とにかくよく笑い夏を楽しんでいました。お茶1杯でこんなに仲間と笑いあえるってなんて素敵!とこどもたちをまぶしく感じました。小学校・中学校合わせて9年間、地元の緑茶とともに過ごし、地元のお茶を美味しい!と言うのは変わらないけれど笑う声の響きは幼い声から大人びた声に変化していきます。こどもたちの笑い声にも耳を傾けてみてください。




受け継ぐ心~出会いの虫送り~

2023年8月7日~2023年8月13日放送 
北陸放送 ラジオ開発局 中川留美

【番組概要】
多種多様な農薬がなかった時代、農作物を害虫の被害から守るために行われてきた伝統行事に「虫送り」があります。虫送りは稲の害虫退治だけでなく、集落内のケガレや悪霊を追い払うという心意的な意味も持つとも言われています。こうした虫送りは、全国各地でも見られますが、多くの場合、集落ごとに分かれ、それぞれの区域で別々に行われます。しかし、石川県七尾市中島町小牧地区では、お隣の地区と合流して行っていて、「出会いの虫送り」と呼ばれています。先人から受け継いできた「虫送り」を次の世代へ繋げていきたい思いはあるものの、集落の高齢化、過疎化のため、虫送りの担い手不足の問題も抱えています。虫送りを続けることを難しく、負担に感じていましたが、20年前から「虫送りサポーター」という取り組みを行い、集落の外の人々の力を借りることで虫送りを続ける思いを取材しました。

【制作意図】
昔から残されてきたものを大切に受け継ぎ残していきたいという思いはあるものの、続けていくには、人々の協力がなくては続けることが難しいということがあります。さらに集落の行事となると、集落以外の人が行事に参加するということに抵抗があるのではないか考えてしまいますが、石川県七尾市中島町小牧地区では、20年間、「虫送りサポーター」という取り組みを行っています。「虫送り」の様子から見えてくる伝統行事を受け継ぐ人々の気持ち、支え合う姿を伝えたいと思いました。

【制作後記】
「やっぱり、虫送りが好きなんですよ。」取材中、虫送りサポーターのお世話役が言った言葉が、とても印象的でした。「好き」という思いが、伝統行事を続ける原動力になっている。生まれ育った場所が好きで、祭りが好きで、そういう思いをもった人たちが繋がっている。伝統行事を守る大変さの中にも、それを越えるような受け継いでいくための原動力を感じました。

もう一つのくも合戦

2023年7月31日~2023年8月6日放送 
南日本放送 音声メディア部 後藤 剛

【番組概要】
400年以上続く「姶良市加治木町くも合戦大会」。その名の通り、クモ同士を戦わせる伝統行事。今では国の「選択無形民俗文化財」に登録されている他、日本ユネスコ協会連盟の「プロジェクト未来遺産」にも選ばれている。新型コロナウイルスの影響で今年は4年ぶりの開催となった。そして、本大会の翌日に行われているのが、加治木小学校で開校当時から続いている「もう一つのくも合戦」。子供たちが司会や行事なども含め、すべての運営を行っている。番組ではクモ採取から同行し、子供たちも熱中する「もう一つのくも合戦」の模様をお送りする。

【制作意図】
4年ぶりの開催となった今年の「姶良市加治木町くも合戦大会」。会場には県内外から100名を越すファイターが集まり、熱戦が繰り広げられた。しかし、今後行事継続に向けての課題は山積みだ。最近では温暖化問題に加え、農薬、土地の開発など、さまざまな要因が重なりコガネグモの数が激減。また、行事を運営する後継者不足も深刻化し、存続の危機に直面している。伝統行事を継承するためのカギとなるのが、地元の子供たちが行う「もう一つのくも合戦」。「将来、子供たちに担ってもらいたい」という想いで毎年行われており、行事を通じて自然や生態系の構造、環境問題、地元の歴史、そして命の大切さも学んでいる。子供たちの行事に対する取り組み、今後継承していくためには何が必要なのか、伝統行事の在り方を考える。

【制作後記】
クモの採取会に参加し、「Zスパーダーズ」の一員として「もう一つのくも合戦」で優勝した川窪まりんさん。大会直後はクモとの別れに寂しさを感じていたが、改めて話を聞くと、「本大会にも出場したい」と力強く宣言してくれた。本大会でベテランの方にクモ選びのコツについて質問すると、「頭が大きくて、脚の長いクモが強い」と語る方もいた。
今年優勝したのは川端勝夫さん(65)。挑戦を続けて約20年。優勝したクモは小さめであまり期待はしていなかったが、「当日はなぜか元気が良く、勝負強さを発揮してくれた」と話した。「くも合戦」の奥深さを感じる大会だった。

2023年7月19日 (水)

変わりゆく街で変わらぬ味を ~渋谷・老舗喫茶の味~

2023年7月24日~2023年7月30日放送 
文化放送 制作部 神谷友里杏

【番組概要】
東京都渋谷区渋谷の歴史ある商店街「百軒店」にある名曲喫茶ライオン。近年目まぐるしい勢いで再開発が進み、その姿を変えていく渋谷の街ですが、その中でも100年近くの歴史を持ち、変わらず営業を続けてきた老舗喫茶から聞こえる”音”に迫りました。レコードから流れるクラシックの美しい音はもちろん、静けさの中で思いを込めて作られるコーヒーの音や店員による曲説明のアナウンスの音にフィーチャー。現在お店を切り盛りする山寺さんにもインタビューを行い、お店の歴史や、今後への想いなども語っていただきました。

【制作意図】
東京で生まれ育った私からすると”渋谷”という街は、いつでもカルチャーの中心かつ先端でありました。そんな常にうごめきを見せるこの街で、昔ながらの老舗喫茶があると知り、いつまでも変わらない独自のスタンスを貫くこのお店の美しさや儚さを取り上げたい、その中でも”音”に注目したいと強く思ったことから、今回のテーマでの制作を決めました。時代は変われど、このお店の中で聞こえてくる「こんな音」や「あんな音」は変わらず訪れた客を優しく迎え入れていた、そんな魅力を引き出せるように制作いたしました。

【制作後記】
お店に足を一歩踏み入れた瞬間、別世界に迷い込んだかのような空間が広がっており衝撃を受けました。スマホの中で聞いたことのある有名クラシックも、名曲喫茶ライオンの中で聴くとまるで別物のように柔らかく立体的に感じました。お店にたどり着くまでに聞こえてきた雑多で機械的な音に比べるとなおさらそれを感じました。どんどん変わっていくこの世界で、変わらぬ音や想いを貫く大変さや素晴らしさを改めて感じた機会でした。

 

幻の魚、エツを訪ねて

2023年7月17日~2023年7月23日放送 
RKB毎日放送 オーディオコンテンツセンター 梅崎大樹

【番組概要】
毎年5月上旬から7月の中旬まで期間限定で解禁となる「エツ漁」。エツは日本国内では有明海にのみ生息し、漁の期間も限定的、限られた漁業者しか漁を行うことができず、「幻の魚」とも呼ばれています。エツとはどんな魚なのか、どのように漁が行われているのか、福岡県大川市の漁師さんの漁に同行しました。

【制作意図】
国内では有明海にのみ生息、限られた漁の期間、許諾を得た行業者のみが漁を行えること、言い伝えられる弘法大師の伝説など、「幻の魚」と呼ばれるエツに、ロマン、神秘性を感じ漁の様子を音に残したいと思い取材しました。

【制作後記】
エツ漁を50年以上行っている漁師さんに2度、漁に同行させていただいたのですが、獲れたエツは両日とも10匹ほど。必ずしもそのくらい獲れる訳ではなく、1度の漁で100匹以上獲れる日もあれば、ゼロの日もあるということです。神出鬼没に現れる様、姿の美しさに「幻の魚」と言われる所以を感じました。



うけたもう!羽黒山伏 ティム

2023年7月10日~2023年7月16日放送 
山形放送 アナウンス部 門田和弘

【番組概要】
1400年以上も前から「修験の山」として崇拝を集めている出羽三山(羽黒山・湯殿山・月山)。江戸時代以降は「西の伊勢参り・東の奥参り」と言われる程の参詣スポットで、その力を求めて山伏が集い、今でも厳しい修行を積んでいます。中でも羽黒山は、羽黒修験道の中枢として、古来から山伏修行の厳格なスタイルを守り続けてきました。しかし近年は女人禁制も解かれ、さらに外国人山伏も受け入れ始めています。ニュージーランド出身のバンティングティモシーさん(ティム)もその1人です。羽黒山伏の精神文化に魅了され、荒行の末、2017年に山伏となりました。現在、ティムはSNSで世界に向けて、日本の山伏文化を発信しています。その結果、修験道に興味をもち、山伏になる資格を得るための入門儀礼(秋の峰入り)に参加する外国人が増えています。羽黒山伏最高位の星野文紘松聖は、羽黒修験の言葉「うけたもう(受け賜る)」が全てであり、今や垣根を取り払う時代にある。閉鎖的な山伏の世界から、開放的な山伏の世界への転換期なのだと・・・まさにグローバル修験道の勃興といえます。                  


【制作意図】
①昨年のコンクール・総評において、放送作家の石井彰氏から「外国人の録音風物誌を聴いてみたい。新しい日本文化との融合が気になる」といったコメントを頂きました。それからリサーチを続け、今回の「外国人山伏」を題材に取り上げる事になりました。日本古来からの閉ざされた文化である「修験道」、その中に入り込む「外国人山伏」= なぜ? その疑問を突き止めてみたくなったのです。                                    ②「録音風物誌」らしい音を求めて、今回、特に狙った音は「石を突く金剛杖と、鈴の音」。本殿まで1.7km続く石段は、江戸時代に作られたもの。その時代時代の参詣者が様々な思いを込めて踏みしめた2446段の石の1つ1つを、地と人を繋ぐと言われている「金剛杖」で「カツ―ンカツ―ン」突く快音と、地霊を鎮めるといわれる「鈴の音」が合わさり、催眠効果を誘う心地よい音を録音する事が出来ました。その他にも法螺貝、川での禊の唱え、静寂な山中の雨の音など、非日常の音が羽黒の山にはたくさんありました。

【制作後記】
山伏修行の一部を体験しました。(本来は体験するものではないと思うんですが・・・) 羽黒山伏最高位の星野文鉱松聖から「体で感じてこそ、いい番組が作れる!」との励ましの言葉を頂き、生涯初のふんどし姿に!6月上旬とはいえ、月山からの雪解け水は水温7℃。全身が震え、冷たさが痛さに変わり、星野氏の見守るプレッシャー?の中でとにかく耐えに耐えて、ティムが般若心経を唱える横で、私はうめき声を上げる事しか出来ませんでした。しかし不思議と川から上がった後は清々しい気持ちになりました。今回は構想段階から山伏の事を深く学び、取材でも山伏から直接話を聞く事ができ、とにかく「山伏」は深い世界です。山伏の説明だけで時間が過ぎてしまうので、言葉を選び、出来るだけ分かりやすいシンプルな構成を心掛けたつもりです。取材の最後に突然、星野さんとティムが一緒に法螺貝を吹き始めました。2つの(2人の)法螺貝のコラボは、ティムが受け入れられた証拠。嬉しくて涙が出そうになりました。

半世紀以上の歴史を持つ録音構成番組。全国の放送局がその土地ならではの風俗をそこでしか聞くことのできない音とともに紹介します。

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