2020年10月16日 (金)

夢を奏でる魔法の手

2020年10月26日~2020年11月1日放送 
RKB毎日放送 ラジオ局制作部 江里口雄介

【番組概要】
福岡県福岡市在住のプロパフォーマー、なかしま拓さん24歳。両手を重ねて空洞を作り、そこに息を吹き込んで、楽器のように操る手笛奏者。学生時代に音楽の道を志すも、楽器を買うお金がなく、手笛にたどり着いたという。毎日のように、福岡随一の商業都市天神に出かけては街角で演奏を続けてきた。いつしかそれは、天神の街の見慣れた風景になっていた。また、その活動が注目され、昨年には、アメリカ、ニューヨークのアポロシアターに招かれ、海外のパフォーマーからも注目される存在になっていた。順調に歩み始めたプロパフォーマーの道だったが、突如として状況は一変する。新型コロナウィルス・・・街角での演奏は、できなくなり、仕事の依頼もなくなってしまった。それでも、彼には、この状況に屈するわけにはいかない理由があった。魔法のように手笛を奏でる新進気鋭のパフォーマー、その挑戦と苦悩を追った。

【制作意図】
新型コロナウィルスの影響で、各業界は不振に陥っている。商店や飲食店、サービス業など、経営破綻を招き、連日ニュースとなっている。だが、そんなニュースにもならない所でも、新型コロナウィルスへの挑戦や、葛藤、日々戦っている人たちがいる。今回取り上げたパフォーマーの世界も、その一つであろうと思う。そしてそれは、天神という街の風景の一部。普段そこまで注目することはなくても、無くなるととなんだか物足りない。彼らが、今どんな思いで戦っているのか、そして何より、そんな彼らを応援したい。パフォーマンスのチカラを信じている彼らと同じように、ラジオのチカラを信じて制作しました。

【制作後記】
何より、主人公である、なかしま拓さんの純粋な気持ちに、心惹かれました。一つ一つの言葉を丁寧にしゃべる彼の口調に、手笛への熱意、こどもたちへ、成功と苦労、すべて含めて夢の大切さを伝えたいという彼の想いの強さを知ることができました。その実直な思いが、パフォーマー仲間や、協力者を惹きつけていることも感じとることができた取材でした。その彼の魅力、想いの強さを、どれだけ本作に詰め込めるか、反映できるか、そこで悩み、制作時間を費やした思います。あわせて音で想像させる表現とは何か、今まで以上に考えさせられた貴重な制作体験になりました。技術スタッフといつもと違う楽しみを味わいながら、録音できました。ありがとうございました。

未来につなぐ鳴り石の音

2020年10月19日~2020年10月25日放送 
山陰放送 コンテンツ局制作部 安藤健二

【番組概要】
鳥取県琴浦町にある、「鳴り石の浜」は、楕円形の丸い石が一面に広がる珍しい海岸です。この丸い石どおしが、打ち寄せる波にもまれ、転がりぶつかりあうことで、「カラコロ」という音を立てます。この音は、波の強さ波打ち際に集まる石の大きさによって変わります。訪れるたび、その音は違い、様々な表情を見せてくれます。また、この海岸、ゴミという存在をわすれてしまうぐらい、ゴミがありません。近くに住む、岩田弘さんは、この海岸をゴミのない、自然のままの海岸にと、約60年間、清掃活動をされてきました。そして、この海岸を、新たな観光地にしようと約10年前「鳴り石の浜」プロジェクトが立ち上がりました。様々な活動を通し今では、町を代表する観光地になりました。プロジェクトメンバーの今の、上田啓悟さんの思いとは。

【制作意図】
カラカラ、コロコロと心地よい音、いつまでも聞いていられます。そして、この海を、音を、守っている人たちがいます。その方たちの想いとともに、この海岸の波打ち際で聞いていかの気分で、鳴り石の音をたぷりと届けたいとおもいます。また、天候、気候によって地響きにもにた「ゴロゴロ」という力強い音の日もあり、音の違いにも触れて頂きたい。

【制作後記】
取材で、鳴り石の浜に行くたびに、鳴り石の音が違い、時には、力強い音。この音の違いに驚きました。そして、この鳴り石の浜を、守るべく多くの人が様々な取り組みを行い、また、新たなコミュニティーも生まれ地域の活動拠点となっています。番組では、活動についてなど十分にお伝えできてませんが、この「鳴り石の音」をたっぷりとお聴き頂けたらと思います。

2020年10月 8日 (木)

ラジオ登山~蝦夷富士・羊蹄~

2020年10月12日~2020年10月18日放送 
北海道放送 ラジオ局制作部(パーソナリティ)山根あゆみ

【番組概要】
北海道を代表する山のひとつ、羊蹄山。標高1898m。日本百名山のひとつで、富士山のような美しい立ち姿から「蝦夷富士」と呼ばれる、全国から多くの登山客が訪れる人気の山です。しかし、今年は新型コロナウィルスの影響で外出自粛の意識が強まったことで、登山者にどのような変化をもたらせたのか。実際に登り、今の羊蹄山の様子を伝えます。今年は登山に行きたいけれど行けなかった方も、登山に興味がない方も、一緒に登った気持ちになって羊蹄山の魅力、登山の楽しさを感じてもらえたらと思います。

【制作意図】
コロナ禍の登山。登山者はどんなことを意識して登っているのでしょうか。また、今年は仕方ないと登山を断念した方へ、さらに普段山に登らない方へも、羊蹄山の大自然と開放感を味わってもらえるような、ラジオから疑似登山ができればと思ってまとめました。ガイドブックには5時間かかる登りを、番組が終わるまでのおよそ10分にまとめたので、展開の早いハイペースラジオ登山になってしまいましたが、羊蹄山の現状だけでなく、鳥の声、登りの辛さ、山小屋でのおもてなし、風の音、登頂の喜び、そういう感覚を耳を通して、肌で感じてもらえると嬉しいです。

【制作後記】
制作を担当させていただいた私は、羊蹄山の麓で生まれ育ち、小学1年生の頃からこの山には何度も登り続けています。いつも登っている時は、疲労感からくる愚痴で頭がいっぱいになったり、自分のことをゆっくり考える、自分と向き合う時間として過ごしていましたが、今回録音機を持って登ったことで、改めて様々な大自然の音に気付くことができました。と同時に、自分の耳で体感した音をそのまま表現することの難しさも痛感しました。
頂上へ着いた時の達成感と登山客の喜びの顔。今年は特に、その喜びが弾けていたように見えました。

2020年9月15日 (火)

母がくれた宝のコロッケ

令和2年 録音風物誌番組コンクール 最優秀賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年10月5
日~2020年10月11日放送 
山梨放送 小林奈緒

【番組概要】
山梨県甲州市の小さな惣菜店「ほっこりや」。看板メニューは、その名も“ばくだんコロッケ”です。ソフトボール大の特大コロッケには、山梨で馴染みのある馬肉がたっぷりと使われており、1日に300個近くが完売するといいます。店主の松崎しず江さん(64歳)は、精肉店の娘として生まれ、
50年に渡って愛され続ける地域の味を守っています。しかし、現在の「ほっこりや」をオープンさせるまでには、幾重もの苦難がありました。番組では、悲しみを乗り越えて「母の味を守る」と決意したしず江さんの熱い思いと、人々を虜にする“ばくだんコロッケ”の秘密に迫りました。


【制作意図】
地域で50年に渡って親しまれているめずらしいコロッケがあると聞きつけ、早速店に出向きました。まず、その大きさにびっくり!普通のコロッケの3個分はあろうかという、特大サイズのコロッケです。一口食べて、またびっくり!普通のコロッケとは一味違う馬肉の旨味、滑らかなじゃがいもの食感、塩コショウが効いたシンプルな味付けながら、胸焼けせず後を引く美味しさ…
魅力がたっぷり詰まったのルーツを辿るべく、取材を開始しました。コロッケづくりから見えてきたのは、しず江さんの亡き家族への想いと、一緒に歩んできたお客さんとの絆です。心温まる山梨ならではの風物誌を、コロッケが揚がる美味しい音とともにお送りします。

【制作後記】
「ほっこりや」を訪れる常連客はコロッケ愛に溢れていて、取材中もたくさんの笑顔に出会いました。
“ばくだんコロッケ”が50年に渡って地域で親しまれている理由は、その味だけではありません。しず江さんの人柄があってこそなのです。弟と母親を亡くし、悲しみに暮れるしず江さんの背中を押してくれたのは、精肉店時代からの常連客でした。しず江さんは地域で待ってくれている人の想いに応えるため、涙をこらえて自分を奮い立たせたのです。たくさんの愛情が詰まった“ばくだんコロッケ”は、これからも変わらず、地域の味としてずっと受け継がれていくのだと思います。

 

つちのね~宮崎の農林業を支えた鍛冶職人~

令和2年 録音風物誌番組コンクール 優秀賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年9月28
日~2020年10月4日放送 
宮崎放送 ラジオ部 二木真吾

【番組概要】
宮崎県小林市野尻町。ここで小さな鍛冶屋を営む男性がいる。白坂 伊佐男さん(83)。
白坂さんは、17歳の時に鍛冶職人だった兄に弟子入りし、以来約60年、鉄を叩き続けてきた。白坂さんの手掛ける刃物は、家庭で使う包丁はもちろん、農作業で使う鎌やナタ、牛の爪を切る削蹄用のノミなど数百種類に上る。オーダーメイドだからこそ、特殊な刃物を生み出すことができる。白坂さんは、妻のキクエさんと共に、二人三脚でこの小さな鍛冶屋を営んできた。妻が身重の時も、ケンカをして口を聞かない時も、ずっと一緒に鉄を叩き続けてきた。しかし、2015年3月。白坂さんの工場が火事に見舞われ、住宅にも焼失。足が悪かった妻、キクエさんは逃げ遅れ、帰らぬ人となった。もう、鍛冶屋はできない…。そんな白坂さんを再起に導いたのが、ひっきりなしにかかってくる電話だった。「白坂さんの包丁じゃないとダメじゃ…」、「切れなくなったから研いでほしい…」。そして、焼け跡から、愛用していた金づちが見つかった。…これでまた叩ける…。再起を決意した白坂さんは、再び、鉄を叩き始めた…。「家内もまだ一時は、頑張りないよと言ってくれてると思います…」

【制作意図】
 
古き良き物があれば、古き良き音もある。私が頭の中に残っていた古き良き音。それは、小学生の登下校時に聞いていた白坂さんの鍛冶屋から聞こえてくる音だった。私の祖父は、牛の爪を切る削蹄師をしていた。祖父は、白坂さんにオーダーメイドの刃物を依頼していた。私も小さいころから、白坂さん夫婦で一緒に鉄を叩いている姿も見てきたが、4年前、火災により工場、住宅、そして、妻を失ったことを知った。もう、再開はできないだろうなと私自身も思っていたが、数か月後に鍛冶屋を再開したことを知った。まだ、槌の音は消えてない…。 消しちゃいけないと思った。

【制作後記】
 
これまで、何気なく見ていた、聞いていた音だったが、改めて、ラジオの番組として聞こうとしたときに白坂さんの人柄、思いが、どう音だけで伝わるか。ということに終始した取材だった。もちろん、反省点はたくさんある。ただ、これから残ってほしい音であるし、残したい音でもあった。白坂さんご自身も、辛い経験をされている中で、大病を患い、現在も病気と闘いながら鉄を叩き続けている。お客さんのため、亡くなった妻のため、人は人に支えられていることをまじまじと実感させられた。こういう時代だからこそ、こうした、古き良き音は私たち、ラジオディレクターが少しでも、出会い、録音し、音の記憶として、後世に残すことの大切さを感じる番組制作となった。

広島親子三代 この街でビールをつぐ

令和2年 録音風物誌番組コンクール新人賞受賞作品
再放送にてお送りします

2020年9月21
日~2020年9月27日放送 
中国放送 RCCフロンティア 大橋綾乃

【番組概要】
広島市の中心部にある繁華街・流川で、連日行列ができる「ビールスタンド重富」。重富酒店の倉庫の一角に設けられた店舗は、わずか3坪の敷地ながら「うまいビールが飲める店」として、全国からお客さんがやってきます。営業は1日2時間、注文できるのは1人2杯までと、一風変わった業態のお店を始めたのは、重富酒店の社長で、ビールスタンド重富のマスターでもある、重富寛さん。昭和のサーバーと現代のサーバーを使って、同じ銘柄のビールを注ぎ分けます。「うまいビール」の提供を通して、重富さんが目指すこととは。極上のビールの背景に迫ります。

【制作意図】
流川で育ち、地元を愛する重富さん。この地を元気にするには何ができるのかと考え、自分が得意な「うまいビールを注ぐこと」を思い立ったそうです。集客のための店舗なので、営業時間は短く、「仕事じゃなくて趣味だ」と仰っていました。「ビールスタンド重富」は、流川でやることに意味があります。こだわりのビールが飲める人気店、というだけではなく、地元の活気を取り戻すために活動する姿を伝えます。

【制作後記】
重富さんの地元への愛やビールへのこだわりを聞くと、ビール好きな方はもちろん、あまりビールが得意ではないという方にも、訪れてほしい店だと感じました。また、取材中、ビールを飲んだお客さんの、「うま!」という反応がとても印象的でした。うまいものには人を笑顔にする力がある。それを強く実感する取材でした。重富さんが愛する流川の地、ぜひ訪れてみてください。

心の支援を届けたい フードバンク山梨の夏

2020年9月14日~2020年9月20日放送 
山梨放送 ラジオ制作部 小林奈緒

【番組概要】
「先生、何か食べるものない?」
給食のない夏休み、食料を求めてSOSを出した子どもたちがいました。
おなかを空かせた子どもたちを救おうと立ち上がったのが、認定NPO法人「フードバンク山梨」理事長の米山けい子さんです。食品ロスの削減を目的に活動を続ける「フードバンク山梨」は、毎年学校の長期休みに、子どものいる生活困窮世帯に向けた食料支援を行っています。コロナ禍の夏休み、米山さんの元には支援を求める多くの声が寄せられました。
箱いっぱいに詰めた食料に、米山さんはどのような想いを託したのか?支援を受ける世帯のリアルな声とともに、この夏の活動を紹介します。

【制作意図】
現在、日本の子どもの7人に1人が貧困状態にあると言われています。
貧困によって子どもたちの将来が奪われることがあってはならないと、米山さんは強い意志を持って、食料支援活動を続けています。支援する食料はすべて、企業や学校からの寄付で集まったものです。そしてボランティアの手によってひとつひとつ丁寧に箱詰めされ、各家庭に届けられます。
番組では、子どもたちのために奮闘するフードバンク山梨と、実際に支援を受ける家庭の両方の目線から取材をすることで、コロナ禍における食料支援活動の必要性を伝えたいと考えました。

【制作後記】
真夏の倉庫で、汗を流しながら食料を箱詰めするボランティアの姿。
ダンボール箱を開けた瞬間に広がる子どもたちの笑顔。取材で出合った様々な光景が目に焼き付いています。今回、コロナ禍の新たな取り組みとして初めて大学で行われた食料支援では、学生から「もやしばかり食べていた」「最悪の場合は学業をやめる選択もある」といった声も聞かれ、貧困は身近なところで想像以上に深刻化していることを知りました。新型コロナウイルスの影響で、困窮世帯は今後も増えることが予想されますが、子どもたちや学生のとびきりの笑顔から、フードバンク山梨の食料支援が生きる活力に繋がっていることを実感しました。

2020年8月27日 (木)

夏をおいしくする音

2020年9月7日~2020年9月13日放送 
信越放送 ラジオ局編成制作部 生田明子

【番組概要】
すいか売り場のすいかを前にポンポンと叩き、どれがおいしいかを聞き比べる。誰もが、1度は経験したことがあるのではないでしょうか?でも、皆さん、ほんとにおいしいすいかの音を知っていますか?そしてその音をしっかり聞き分けていますか?すいかの生産者は、出荷する前に「ぽんぽん」と表面を叩き、その音によって中身の品質を判断します。本来なら切って甘さを確かめたいところですが、1玉で販売している以上、そうもいきません。生産者は、この「ポンポン」という音の高低を聞き分け、未熟なのか、熟しすぎたのか、おいしいすいかなのかを判別します。ただ、一般人には聞き分けにくいのが実状です。そこで、この番組では「おいしい」と判断されるすいかの音は、どんな音なのか? 生産者と、絶対音感を持つ音楽のプロを訪ね信州の夏の特産品すいかのおいしさに「音」から迫ります。

【制作意図】
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、いわゆる三密にならない環境での取材先を選定する中「畑」に行きつきました。毎年1万8000個ものすいかを出荷する小野さんのすいか畑はあまりに広大で、3密とは程遠い環境でした。また外出自粛ムードの中、自宅での食事を「充実させたい」というニーズがある中で信州自慢の逸品を一人でも多くの方に知って頂き、おいしいという幸せを家庭で味わって頂きたいという思いで制作しました。

【制作後記】
今回実験をしたすいかの品種は「祭ばやし777(スリーセブン)」。お祭り気分で夏を楽しめるような、縁起の良い名前がついています。売り場ですいかの音を確かめる場合は、ぜひ番組で紹介した曲をイヤホンで聴いた直後に、すいかをたたいて選んで頂けたらと思います。品種の違いや、すいかが2段に重ねられている状況や、お皿にのっている場合などのちょっとした環境の違いで音が少しずつ変わってしまうので、そのあたりはご注意下さい。核家族化がすすむ中、スーパーなどで並ぶすいかの大半は、カットしたものが多くなってしまいました。が、すいかは、追熟しない作物。一定期間おいても甘さが増すことはなく、劣化していきます。そしてカットしたほうが、劣化はどうしても進んでしまいます。ぜひ、すいかを一玉買って、音も味も楽しんでみてください。

 

2020年8月20日 (木)

津田演奏堂ラストソング~111年のありがとう

2020年8月31日~2020年9月6日放送 
南海放送 メディアセンター 植田 竜一

【番組概要】
「歳には勝てない…」
創業111年を迎えるレコード店・津田演奏堂が6月30日に閉店しました。名だたる演歌歌手が来店し、街頭キャンペーンやレコードの手売りなどをおこなってきた愛媛・四国を代表する老舗店です。
最終日の津田演奏堂に密着取材し、聞こえてくるすべての音を録音しました。4代目店主の津田安俊さんと別れを惜しむお客さんとの会話、店を閉める最後の瞬間のシャッターの音…。
そして、閉店間際に店主の津田さんがとりだしたのは傷だらけのレコードでした。70年前の電気蓄音機の針を落とした瞬間、店内は時空を超えた雰囲気に。津田演奏堂の最後の1曲「ラストソング」とは―。

【制作意図】
創業111年の音を残さなければもう二度と私たちの耳に届くことはないということ。また、レコード店と地方都市を取り巻く環境について改めて考えてみたかったこと。この2つの動機が津田演奏堂の最後の瞬間を記録しようと思ったきっかけです。そして同時に、店内に置かれている電気蓄音機を使ってかける最後の1曲は何が選ばれるのか知りたかったという思いもありました。何よりも普段から、私たちを取り巻く環境の変化、つまり人口減少が進む地方に住むこととCD・レコード離れが進む音楽シーンに何か重なるものを感じていました。それはいったい何なのか。
津田演奏堂を結節点として考えてみようと試みました。

【制作後記】
チリチリとした傷だらけのレコードが70年前の電気蓄音機によってノイズだらけの音色として店内に響き渡る。現代の高音質に慣れた人の価値観からすると、ともすれば「不良品」と言われるレベルです。店主の津田さんは「人は何もかも高音質を追い求めて柔らかさ、あたたかみを忘れた」と寂しげに語ってくれました。一方で、津田さんの言葉は音楽の高音質化だけでなく、便利や合理化を追い求める私たちの日常生活全般に言えることなのではないのか。
津田演奏堂の「不良品」レコードによるラストソングをどうとらえるか。改めて考えさせられます。

天然ドジョウのつぶやき

2020年8月24日~2020年8月30日放送 
山形放送 制作部 結城義則

【番組概要】
2020年夏―。辺りがまだ薄暗い午前4時半。山形県山辺町の水田わきの水路に、多田秀逸さん(69)の姿が…。水の流れの中から金網の仕掛けを引き上げました。ドジョウを捕るための仕掛けです。「ドジョウは少しだけ、ほとんどがハヤの稚魚」。残念ながらこの日は〝不漁〟でした。自然豊かな山辺町に生まれ育った多田さんはコメの専業農家です。おいしいコメ作りの傍ら、ドジョウ捕りも続けていますが、最近はその姿がめっきり減ってしまったと言います。ドジョウの棲み処の水路が、圃場整備に伴って土からコンクリートへと変わったことなど、生息環境が変化したためではないかと多田さんはみています。量は減っているものの、多田さんが捕るドジョウは町内の産直施設の目玉商品です。今シーズンも待ちかねた常連客が買い求めに訪れていました。そしてその売り場にいた多田さんは、客にこう述べていました。「たくさん食べてください、貴重品だから。来年は(ドジョウ捕り)止めてしまうかもしれない…捕れなくて…」。

【制作意図】
多田さんのドジョウ捕りを初めて取材したのは6年前、2014年の夏です。当時は、縦40センチ、横30センチほどの大きさの袋状の仕掛けいっぱいにドジョウが掛かっていましたが、今回の取材では計5か所の仕掛けの設置場所すべてで、〝大漁〟の場面に出くわすことはできませんでした。それでも、ハヤやナマズなどの稚魚と一緒に、例年よりも数は少ないながら、天然ドジョウの姿は確認しました。そして一連の取材のなかで気になったのが、ドジョウの群れから聞こえてくる〝音〟です。「ひょっとしたらドジョウの鳴き声…?」そんな思いを抱きつつ、専門家に聞いたところ、ドジョウは群れのなかで身を隠そうとする場合などに〝音〟を出すことが分かりました。環境の変化とともにドジョウの姿が年々減っているという現状と、まるで何かをつぶやいているようにも聞こえるドジョウの〝音〟を広く伝えたいと思いました。

【制作後記】
多田さんは、天然ドジョウを捕まえた後、水槽のなかに2、3日入れて〝泥〟を吐かせ、
町内の産直施設に出荷しています。毎年、楽しみにしているという常連客は「臭みがない」と
語り、おすすめの食べ方はゴボウと一緒に天ぷらにすること。家族全員で晩ごはんの
おかずとして食べていると教えてくれました。一方、多田さんはどんな食べ方を
しているのか尋ねたところ「ドジョウはまったく食べない。捕るのが専門」という答えが
返ってきました。ドジョウ捕り名人であっても、その〝味〟についてはあまり得意ではない
ようでした。

半世紀以上の歴史を持つ録音構成番組。全国の放送局がその土地ならではの風俗をそこでしか聞くことのできない音とともに紹介します。

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