2023年6月13日 (火)

弓浜絣

2023年6月12日~2023年6月18日放送 
山陰放送 制作局制作部 桑本充悦

【番組概要】
鳥取県西部を流れる日野川(ひのがわ)。その流れを途中から受け継ぐ米川(よねがわ)は、もともと砂地で、十分な水がなく、農家の人たちを苦しめてきた弓ヶ浜半島のために、江戸時代中期、60年の歳月をかけて作られました。米川が出来るまでは、さつまいもが中心であった作物も、お米に、綿、そして、今では鳥取県を代表する特産品、白ねぎの一大産地となりました。そうした中、特産の綿を使って生まれた「弓浜絣(ゆみはまがすり)」を紹介します。

【制作意図】
昭和レトロな電気を使った「くくり機」や、足で踏んで動かす「足踏み織機」など、生業として成り立たせるために、すべてを手仕事ではなく、かといって近代的な機械を使うでもなく、素朴な作業を、そして、その音を残しておけたらと制作しました。

【制作後記】
今回の取材を通じて、弓浜絣そのものもそうですが、日野川をたどり、取水口から境水道まで米川をたどり、普段当たり前に流れていると思っていたものを、歴史も含めて再確認、再認識することが出来ました。

WE LOVE 馬コ(うまっこ)~チャグチャグの音響く~

2023年6月5日~2023年6月11日放送 
IBC岩手放送 編成部ラジオ放送部 瀬谷佳子

【番組概要】
みちのく・岩手に初夏の訪れを告げる伝統行事「チャグチャグ馬コ」。南部盛岡地域は古くから馬産地として知られ、人と馬がかやぶき屋根の下で共に暮らす「南部曲がり家」で家族の一員として大切に育て、扱ってきた歴史があります。6月第2土曜日に開催される「チャグチャグ馬コ」を前に本番に向け準備を進める関係者の様子を取材しました。かつては100頭近くの馬が装束をまとい鈴の音を響かせながら行進しました。しかし、馬主の高齢化や減少、後継者不足、農耕馬としての活用衰退などが理由で、馬コの参加はおよそ半分に。それでも伝統行事を守りたいと、乗り手や引き手の研修会を開き、未来へつなげようとする人たち。長きにわたり近い関係にある馬への愛情を届けます。

【制作意図】
ゆったりとリズムを刻むひづめの音と「チャグチャグ」と響き合うたくさんの鈴の音を聞けば、夏が近づいてきたと感じる地元の人たちにとっては親しみのある音。一方、近年、パレードに参加する馬が減少の一途をたどる中、この歴史のバトンをつなごうとする南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会のメンバー。自宅に隣接した厩舎でまさに「南部曲がり家」を彷彿させる生活で馬を飼い続ける男性がどんな思いで馬と過ごしているのか。思いを取材しました。

【制作後記】
寡黙で近寄りがたい…そんなイメージが馬主の方にありましたが、話してみると馬への愛情にあふれた優しく明るい方々でした。伝統行事を守る重圧も背負いながらそれでも「馬が欠かせない存在」と語る凛としたまなざしに心を打たれました。1頭あたり700個の大小さまざまな鈴が付いた装束をまとい14キロも歩く馬コも、さぞかし大変だろうと思いつつ、ハレの舞台に向け家族総出で鈴を一つ一つ手で磨くというから、それこそ気が遠くなるような準備があるということを皆さんに届けることが出来たら嬉しいです。取材した藤倉さんの馬コはペットで散歩もするのだそうです。

2023年5月22日 (月)

牧野博士を愛する小学生のガイドさん

2023年5月29日~2023年6月4日放送 
高知放送 クロスメディア戦略局ラジオ戦略部 梅木 敦裕

【番組概要】
およそ1500種類以上の植物の新種や新品種に命名し、「日本植物分類学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎。その牧野博士の生き方や性格に憧れを抱く小学生・川本琉楓さんは「多くの人に博士の功績や人柄などについて知って欲しい」という思いから、博士の名が付いた植物園でガイドをしています。琉楓さんはなぜ博士に憧れを抱いたのか、そして博士について多くの人に知ってもらうために奮闘する様子をお伝えします。

【制作意図】
今年の春から高知県出身の植物学者・牧野富太郎が主人公のモデルとなったテレビドラマがスタートし、県内では観光博覧会「牧野博士の新休日」が始まるなど盛り上がりを見せています。その中で牧野博士の生き方や性格に魅了された小学生・川本琉楓さんが、牧野博士についてもっと多くの人に知ってもらうためにガイドをしているということを知り、「高知出身の偉人であり、自身の憧れを伝えるために奮闘する琉楓さんのことを多くの人に知ってほしい」という思いで、取材・制作しました。

【制作後記】
実際にガイドを行なう様子を取材させていただいたのですが、ガイド本番になると大勢のお客さんが集まっていました。「自分が小学生の時、こんな大勢の人に囲まれて何かを発表するとなれば緊張して喋ることができないな…」と思いましたが、琉楓さんは物怖じせずに明るい笑顔ではきはきと、憧れの牧野博士についてのスピーチをしていました。この様子を見て「好き」や「憧れ」を極めることで、自信を持って物事を伝えることができるんだなと今回の取材と制作で感じました。また放送の中にもあった通り、今年の春から琉楓さんの妹・絆心さんがガイドを引き継いでいます。絆心さんがガイドを行なう日時は牧野植物園のホームページで案内が出ていますので、皆さんも是非、現地で絆心さんのガイドを聞いてみてください。そして、ガイドを卒業した琉楓さんの現在の夢は「牧野博士をはじめとした地域の偉人をもっと学んでその魅力を発信できるような本を出版すること」だそうです。

心地よき竹の響きを求めて

2023年5月22日~2023年5月28日放送 
東北放送 ラジオ局制作部 鈴木美希

【番組概要】
仙台中心部から車で1時間ほどに位置する、仙台市太白区秋保町に音吉屋ふえ工房。主の音吉さんは篠笛作りを始めてもうすぐ50年を迎えます。竹の調達から調律、塗りまで一貫して製作しています。各地からの注文を受け製作していましたが、2011年3月発生の東日本大震災が音吉さんに転機をもたらしました。古典調の篠笛の依頼が来たのです。それまで主に製作していたのは、西洋音階に合わせて調律されたドレミ調という、阿波踊り、仙台・すずめ踊りなどのお囃子や、様々な楽器とのコラボも楽しめる篠笛。一方、依頼された古典調は郷土芸能で使われる、独特の音程をもつ笛で、音吉さんは指遣いを動画で確認したり、依頼者との相談を重ねて製作します。音吉さんの笛作りへの思いを届けます。

【制作意図】
仙台で5月に行われる「仙台・青葉まつり」ではお囃子にあわせて踊る「すずめ踊り」が披露されます。お囃子に欠かせないのが篠笛。仙台すずめ踊りで、音吉さんの作る篠笛が盛んに使われていると聞き、工房にうかがいました。竹の細さや性質によって、さらには吹く人の癖を見極めながら調律していることを知りました。一つ一つの篠笛に向き合う音吉さんの思い、そして竹から生まれる響きを感じていただけると幸いです。

【制作後記】
音吉さんはご自身で竹を調達しています。篠笛は、長さがあって細い竹でないと笛の材料にはできません。宮城県、福島県、茨城県の沿岸部の竹林で調達をしていましたが、東日本大震災の影響で9割の竹が採れなくなってしまいました。この先、どのように調達していこうか悩んでいるそうです。自然が材料となるため、環境と密接に関わっていることを改めて感じました。

水の都西条「うちぬき」を未来へ繋げ

2023年5月15日~2023年5月21日放送 
南海放送 メディアセンター 古茂田圭

【番組概要】
愛媛県の東部に位置する西条市は北は瀬戸内海、南は西日本最高峰の石鎚山がそびえる自然豊かな町です。さらに旧西条市(平成16年2市2町が合併)には約3000カ所に「うちぬき」と呼ばれる石鎚山系地下水の自噴井があり、水の都として親しまれています。ところが、近年「うちぬき」に変化が表れています。地下水の水位の低下、そして塩水化(地下水を大量にくみ上げることにより、地下水帯水層に海水が混入し、地下水の塩素イオン濃度(塩分濃度)が高くなること。)も起こっていあす。うちぬきの水は石鎚山系に降った雨が長い時間(10年~100年)をかけて市内を流れる加茂川の伏流水、その川の水位も下がってきているおです。その原因は何か、さらに「うちぬき」は未来へ繋げるための2つの取組をご紹介します。

【制作意図】
今年の3月に開催したラジオのSDGsのイベントで西条農業高等学校のTeam SSSの旧メンバーに出会いました。Team SSS(Saino Surveying Squad)=西農測量隊として地域情報を発信したり各種コンテストに応募したりと様々な活動をしています。その中で、「うちぬき」を知り・伝え・守ることを目的に、市内での名水ツアーやうちぬきを使った商品作りなどもしています。環境の変化により、うちぬきの水も限りあるものであることも知り多くの人い伝えたと語ってくれました。当時3年生は卒業し今年度新しメンバーで新たに活動することを知り番組で紹介したいと思いました。また環境変化の原因は石鎚の山の手入れができていないことです。「うちぬき」の水を守ろうと山で活動する西条自然学校の取組も興味深いものです。一見豊かにみえる自然の本当の姿を伝えたいと制作致しました。

【制作後記】
うちぬきの水は、名水百選にも選ばれている安全でおいしい水です。取材した高校生たちもほぼ家には自噴井があり、水道の水とは全く違うと誇らしげに話してくれました。旧西条市の水道普及率は20%強、いまでも多くの家庭で「うちぬき」の水が暮らしの水です。水道料金も発生しません。この豊かさはあたりまえではなく、先祖がきちんと山を守ってきたからだと、だからこそ今、自分たちができることをしようと活動する高校生の姿がとても清々しく感じました。新年度が始まったばかりで課題も多いようですが、頑張っていほしいと思います。また、西条自然学校の山本理事長の活動にも頭が下がります、自然の森にもどそうと人工林の伐採を続けられています。山の仕事は危険を伴うえ重労働です。それでも自然の力はすごいと話してくれました。「鳥が木の種を運び 2~3年後には山にあった木が育ってくる」と・・。眩しい笑顔が印象的でした。

校舎によみがえるショパンの愛した音色

2023年5月8日~2023年5月14日放送 
信越放送 編成制作部 美斉津 千夏

【番組概要】
長野県須坂市立東中学校の「プレイエルに命を吹き込む」取り組みを、100年前のグランドピアノの音色とともに紹介します。「プレイエル」とは200年近くもの間、ピアノ音楽の歴史を支えてきたピアノメーカー。ヨーロッパ王室御用達の逸品として評価され、特にポーランドの作曲家ショパンが愛用したことで知られます。現在の価値にしておよそ2000万円ともされる貴重なピアノが、東中学校に存在しました。65年前に学校の開校記念として地元出身の実業家が寄贈。ところが老朽化してほとんど使われなくなっていました。演奏はおろか音の出ない鍵盤の多さに調律師も絶句するほどの状態。そこからどのように音が出せる状態になっていくのでしょうか。話は復活劇にとどまらず、東中学校の歴史を紐解くことになり、関わる人たちの人生を垣間見ることにもなります。主人公プレイエルピアノを取り巻く皆さんの思いを届けます。

【制作意図】
100歳のグランドピアノの音色を、生徒たちがよみがえらせたストーリーに着目。
調律師の米山宏貴さんは、相談を受けた時に「本物なのか?」とまず疑ったそう。そのぐらい世界中で貴重なものだったからです。米山さんが音を出してみると「私、まだ生きています」という声が聞こえたそう。ここからプレイエルのピアノが昔話を語るように、様々な人に出会わせてくれることになります。「楽器としての魂を抜かれた状態」と語った前校長の島田浩幸先生の思いが、生徒に伝わり、生徒も修復作業、資金集めに奔走。そして、このピアノに出会ったことで、音楽の道に進むことができた…という卒業生にも出会います。

【制作後記】
どこまで臨場感を持たせて、このプレイエルピアノらしい音色を録音できるかが一つの挑戦でした。取材の中で、「ピアノは響板が空気を振動させることで大きな音が鳴る」と伺い、ミニコンサートでは、響板を意識しながら、開けた蓋の縁から少し離した位置に録音機材を設置。心地良い音色に感じていただけると嬉しいのですが・・・。東中学校では今後も、プレイエルピアノを通した学びに、力を入れていくようです。すでに動き出しそうな展開もあるとか。楽しみです。

げんじぃの手作りヤギ牧場

2023年5月1日~2023年5月7日放送 
北日本放送 メディア本部コンテンツ局 陸田陽子

【番組概要】
富山県氷見市の中心部から車でおよそ30分。途中、携帯電話の電波が届かなくなるような山道を進んでいった吉懸(よしがけ)地区に、「げんじぃの吉がけ牧場」があります。牧場の主は「げんじぃ」こと村江元三さん77歳です。吉懸で生まれ育ったげんじぃは、72歳の時に家族の大反対を押し切って、たったひとりで朽ち果てた小屋や荒れ果てた田畑を放牧場に整備し、ヤギと触れ合える牧場を作りました。それから5年。反対していた息子さんも、今ではヤギの様子を動画投稿サイトで紹介するなどして、げんじぃを応援しています。

【制作意図】
「自分はヤギのお乳で育ったと小さいころから教えられてきた。第二の人生はヤギと楽しく過ごしたい」と、恥ずかしそうに教えてくれたげんじぃ。ヤギと過ごし、笑顔になれる場所を作りたい。そして過疎化が進む吉懸地区を、笑い声が聞こえる場所にしたいというげんじぃの思いを取材しました。

【制作後記】
息子の剛さんのYouTube動画配信やそのほかSNSの配信を見て、「げんじぃの吉がけ牧場」には全国からヤギに会いたい、ヤギに癒されたいと、観光客が訪れます。去年は、新婚旅行で訪れた人、ヤギと触れ合いたくて市内のホテルに連泊し、毎日通ってきた人、中には3か月間も滞在してヤギの世話のお手伝いをしてくれた人もいたそうです。ヤギとの触れ合いは、心も体も癒されます。ラジオで鳴き声だけでも聞いてホッコリしていただければ嬉しいです。

海女さんを訪ねて

2023年4月24日~2023年4月30日放送 
東海ラジオ 報道スポーツ制作部 吉川秀樹

【番組概要】
2000年以上の歴史を持つ「海女漁」。三重県の「鳥羽・志摩の海女漁の技術」は国の重要無形民俗文化財に指定されています。中でも、鳥羽市相差(おうさつ)町は、日本で最も現役の海女が多いエリア。この町には、海女さんと会話を楽しみながら、新鮮な海の幸を堪能できる食堂「相差かまど」があります。10年前、NHK連続テレビ小説がヒットして一躍有名になった海女さん。実際に海に潜っている姿を映像などで見たことがあっても、直接お話を聞かないと、分からないこともたくさんあります。                                                     いったいどれくらいの深さまで潜るのか?素潜りの技術とは?この仕事のやりがいとは?知られざる「海女さん」の姿を紹介します。

【制作意図】
東海地方のラジオ局に勤務していながら、なかなか直接足を運ぶ機会が少ない三重県南部エリア。鳥羽市の海女漁について、知識としては知っていても、実態は分からずじまい。一度直接お話を聞いてみたいと思ったことがきっかけです。海に潜るのに、酸素ボンベも背負わず、白衣を着て潜るだけ。その状態で、なぜ長時間潜ることができるのか?専門の技術習得にはどれくらいの時間がかかるのか?現役の海女さんの年齢層は?海女を志す若者は誰でもなることができるのか?様々な疑問が湧いてきます。                                                      全国の皆さんに「海女さんとは何か?」を少しでも知って頂きたいという思いで制作しました。

【制作後記】
今回の取材でお話を伺ったのは、この道50年のベテラン・70歳の中村みちこさん。取材で見えてきたことは、今なお現役で海に潜り続けることに「やりがいを感じる」と話す一方で、「仕事だから、やって当たり前」「危険な仕事だけど、ある意味、仕事と割り切ってやっている」「自分がたくさん貝を獲れば獲るほど、稼げる」という思いも持ち合わせているという点です。「これは私の仕事ですから」という割り切りは、どんな業種でも共通する部分。海女の世界も例外ではない。そう感じました。後継者不足を課題としながらも、決して地元の若い女性には、海女になることを勧めない方針も貫いています。(もちろん希望者がいれば大歓迎ですが)常に危険と隣り合わせの環境で、海に生きる海女の仕事。鳥羽市の食堂「相差かまど」を訪れ、海女の世界を垣間見ることができました。                

原発事故から12年 それでもこの地で 牛と共に生きる

2023年4月17日~2023年4月23日放送 
ラジオ福島 編成局放送部 佐藤成美

【番組概要】
福島県楢葉町の山間にある蛭田牧場。12年前の原発事故により避難を余儀なくされた町で、唯一営農を再開しました。牧場のオーナー・蛭田博章さんは、避難指示が出され、先が見えず苦しい思いをした時期もありましたが、諦めず地元での営農再開を実現させました。一度は一頭もいなくなった牛舎には、現在、140頭が飼育できるようになりました。蛭田さんの1日は朝5時から始まり、エサ作りから搾乳、掃除など多岐に渡ります。休む暇もなく忙しい日々が続きますが、蛭田さんは、「このように働けるのも営農再開出来たから。逆に楽しい!」と笑顔で話します。そして、最近では、力強い助っ人も現れました。困難を乗り越え、地元・楢葉町で酪農を続ける、蛭田さんの情熱をお届けします。


【制作意図】
原発事故後の営農再開は、前例がなく大変困難なことでした。先が見えない中、“地元で営農再開させる”と強い意思を貫き通した蛭田さんを、皆さんに知ってほしいという思いから取材・制作しました。また、酪農の現場は、重労働、担い手不足に加え、最近では、飼料などの原材料費が高騰するなど問題が山積しています。蛭田さんも休みなく働いていますが、それ以上に、生き物を扱う責任ある酪農の仕事にやりがいを感じています。その輝いている姿を見て、酪農の魅力を多くの方に伝えたいと思い、制作に取り組みました。

【制作後記】
今回の取材を通して、牛への愛着がとても強くなりました。収録の時に牛とかなり接近したのですが、人生の中でこれほどまでも牛と近づいたのは、初めてでした。乳牛(ホルスタイン)はとても大人しく人懐っこい性格で、収録中もつぶらな瞳でこちらを見つめてきました。蛭田さんが笑顔で話す、「手塩にかけて育ててきた娘たちなので、大切にします!」という気持ちが、少しだけ分かった気がしました。

 

春は「いかなご」 感謝届ける神戸の味

2023年4月10日~2023年4月16日放送 
ラジオ関西 報道制作部 藤原正美

【番組概要】
春を呼ぶ魚「イカナゴ」。年々漁獲量が減り、漁期が短くなっている。漁獲量が減ると、値段は上がる。それでも、神戸などでは古くからの味を守り、同時に資源も守っていこうと、努力を続けている。阪神淡路大震災の後、地元の味を送ることで、感謝や自分が元気でいることの証として、待ってくれる人たちのために、くぎ煮を作り続けている。そんな多くの人の思いを送る。

【制作意図】
神戸では、昔から「イカナゴのくぎ煮」を作っている。元々は漁師たちの家庭料理だったのが、1980年代頃から一般に広まるようになり、それぞれの家庭料理として確立されていった。現在は農林水産省の「うちの郷土料理」で兵庫県の味のひとつにも選ばれている。ところが、ここ数年、漁獲量が極端に減り、漁期が短くなっている。様々な要因が重なり減少につながっているため、対策もとられているが、劇的な改善は見られない。量が少なくなると、当然、値段も高騰。かつて1キロ800円で買えたものが、最近は数千円に。そうしたなかでも、神戸の人たちは毎年「いかなごのくぎ煮」を作っている。なぜ作り続けるのか?家庭の主婦、漁業者の思いと、この家庭の味を知ってほしいと思い、制作に至った。

【制作後記】
漁獲量の減少の原因について、漁業者や専門家にあたってみると、原因がたくさんあり、どれもが複雑に絡み合っていると感じた。漁師さんに伺うと口が重くなる人もいた。一方、消費者もそうした「獲れない」ことを理解していて、金額が高いのも「やむを得ない」と思う人も少なからずいた。それでも作り続けるのは、「くぎ煮」を楽しみにしている人が数多くいて、その人たちへ自身の近況を含め「春の便り」として送っているのだとも感じた。神戸の人のイカナゴへの思いの強さを、改めて実感した。

半世紀以上の歴史を持つ録音構成番組。全国の放送局がその土地ならではの風俗をそこでしか聞くことのできない音とともに紹介します。

ブログ powered by TypePad