刃物全般お任せあれ~野鍛冶職人の誇り
2021年8月30日~2021年9月5日放送
四国放送 ラジオ局ラジオ編成制作部 近藤英之
【番組概要】
日常生活で使う包丁や農具、山林工具などを作る職人は「野鍛冶」とも呼ばれます。徳島県勝浦町の鍛冶職人、大久保喜正さん69歳。半世紀に渡って野鍛冶の道を歩んできました。包丁ひとつとっても、包丁の本体に当たる軟鉄と刃(やいば)になる鋼を叩いて一体化させる「鍛接」という作業に始まり、槌で叩いて出刃や柳葉、刺身など様々な形に形成するなど昔ながらのやり方を踏襲しています。一方で古くなったクワやスキなどの農具の修理も広く手掛けています。徳島県南部は全国有数のタケノコの産地とあって、タケノコ掘り専用のクワの修理の注文も数多く舞い込みます。土壌の固さの違いや、使う人の年齢や癖によってクワの角度や長さが異なってくるため、微妙な調整が欠かせません。市販品にはない、きめ細かな対応に県内はもとより全国にファンがいるといいます。大久保さんは2018年、卓越した技能を持つ技術者として、国から「現代の名工」に選ばれました。大久保さんが考える「もの作り」とは何かをマイクで追いました。
【制作意図】
大久保さんに「技術の確かさ」とは何かと尋ねた時に帰ってきた答えは「器用な人が作る道具が必ずしも良い道具ではない。正解に1ミリでも近い方に一生懸命寄っていく人が作った道具が結果的に良いものになる」というものでした。そして「使う人が刃物をどう使うか」を一生懸命イメージすることの大切さが肝心だと言います。そんな野鍛冶職人の思いを少しでもマイクで伝えられたらと思い、取材に取り組みました。
【制作後記】
大久保さんの工房で、完成した包丁を使って試しにキュウリを切らせてもらった時、力を入れてないのにスッと刃が入り、断面は瑞々しさで光っていました。野菜の繊維質が押されて潰れるのではなく、断ち切られているので切ったあとの鮮度が市販の包丁とは全く違うそうです。今回の取材で、野鍛冶職人の技術の素晴らしさと誇りに触れた思いがしました。
コメント