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2019年10月29日 (火)

丘の上の保育園 55年変わらないもの

2019年10月21日~2019年10月27日放送 
琉球放送 ラジオ局編成制作部 久田友也

【番組概要】
番組の舞台となった「緑ヶ丘保育園」は、沖縄本島中部・宜野湾市に古くからあるバプテスト教会が、1964年に設立した認可外保育施設だ。宜野湾市は住宅密集地だが、希少な緑が残された一角の、小高い丘の上にある。鳥のさえずり、虫の声、様々な自然の音が、子どもたちが裸足で駆け回る園庭にまで届く。園の設立当初から保育に携わる名護タケ先生は、園に勤めて55年。県民の生活が今よりもずっと貧しかった頃から、園の大黒柱として、地域の人々の生活を支えてきた。親・子・孫3世代で卒園生、という世帯もある。恵まれた環境に思えるこの園では、鳥や虫の声の合間に、まったく異質な音が紛れ込む。米軍機の騒音だ。普天間基地の滑走路から約1キロの場所に位置する緑ヶ丘保育園。2017年には「飛ぶ前に外せ」を意味する「REMOVE BEFORE FLIGHT」と書かれた米軍ヘリの部品が、ワイヤーが千切れた状態で、1歳児の部屋の屋根の上で見つかった。騒音に慣れていた保護者たちは「魔法が解けた」ように危険を感じるようになり、空の安全を求めて声を上げている。

【制作意図】
鳥や虫の声、子どもの声というごく普通の生活の音と、米軍ヘリの音を対比させたつもり。その土地ならではの風俗、という基本から逸れるのではないかとも考えたが、そこでしか聞けない音ではあるということで、取材を決めた。番組の趣旨にそぐわないのであればそのような評価も甘んじて受けたい。さて、ひと口に米軍ヘリの騒音と言っても、沖縄県内でも騒音被害には温度差がある。那覇市まで離れると、多くの人はほとんど意識しない。しかし宜野湾市、とくに普天間基地の滑走路両端周辺の人々は、深刻な不安・悩みを抱えている。見えるところにいても熱さを感じないロウソクの炎でも、手をかざすと熱さで痛みを感じるのと似ている。全国のリスナーの耳にわざわざ騒音を届けるこの作品を通じて、米軍ヘリの騒音を普段意識せずに生活できる自分との温度差を見つめてほしい。


【制作後記】
名護先生のインタビューは1時間に3度中断した。米軍ヘリの騒音のせいだ。途中、「普天間基地の近くにいる人が悪いという悪態もよく聞くけどね」と声を落として語った言葉。理解されてこなかった悔しさがにじんだ。園設立当初の緑ヶ丘保育園の園児たちは、フェンスもなかった普天間基地の敷地内へコオロギを獲りに散歩に出かけた。それほど基地と住民は近かった。無理もない。土地を奪われた人が、その近くに住んだだけだ。しかも、滑走路の両端周辺、約3,600人が居住する地域が、米国内であれば土地の利用が禁じられ、安全基準に抵触することが明らかになったのは2007年になってからだ。緑ヶ丘保育園もその中にある。普天間基地を使い続ける人たちの人命軽視の姿勢と、使わせ続ける日本側の人たちが、危険を継続させている。これを書いている途中(10月22日)、新聞を手に取ると、今度は嘉手納基地の機体が3.6㎏の部品を落としたニュースが1面トップだ。親たちの「鳥だけが飛ぶ空を」という願いは、過剰な要求だろうか。

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半世紀以上の歴史を持つ録音構成番組。全国の放送局がその土地ならではの風俗をそこでしか聞くことのできない音とともに紹介します。

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