ナガサは硬く、柔らかく
2023年1月30日~2023年2月5日放送
秋田放送 編成局ラジオ放送部 井谷 智太郎
【番組概要】
マタギの里、秋田県北秋田市 阿仁地区には唯一残る鍛冶屋、西根鍛冶店があります。山里で暮らす人々の生活の道具が店先に並び、その中に ”ナガサ”と呼ばれるひと際目を引く打刃物が並んでいます。この”ナガサ”こそがマタギの魂、マタギにとって命の次に大切な道具といわれ、山の中で枝を切り払い、山から授かった獲物を解体し、その肉の塊をマタギ仲間に切り分ける際に用います。更に熊に襲われたときには、ナガサ1本で自分の命を守る役目を果たす究極の狩猟刀、ナガサ。伝統の技法により鉄の棒がナガサに姿を変えていく様は、実に鍛冶職人がマタギの魂を吹き込んでいるかのようです。番組では、マタギを支える道具、ナガサを造る鍛冶職人の想いに迫ります。
【制作意図】
マタギの里に唯一残る鍛冶屋には、鉄と鋼を接着し、叩いて叩いて鉄を鍛える音が毎日響き渡ります。職人にとって一番気をつかうのは「焼き入れ」と「焼き戻し」の作業です。”ナガサ”には、「硬さ」と「柔らかさ」が求められます。どんなに質の良い鋼を使っても「焼き入れ」と「焼き戻し」のバランスが悪いと刃はすぐにボロボロになってしまうからです。わずかな変化を見逃さず、すばやくあせらずにじっくりと刃物を育てる様は、人の育て方に通じる気がします。人を育てるとはどういうことなのか。職人の刃物造りを通して再考する機会になればと思い制作しました。
【制作後記】
鍛冶店での取材を終えた数日後、伝統工芸のイベントに出展するということで挨拶に伺いました。その日は、小学生が校外学習で職人にたまたま取材しているところで、とっさに録音機をまわしました。その時に語った職人の声は、取材に訪れた際に職人が緊張した面持ちで語った話よりも、今回のテーマの核心に迫る話でした。今回の取材体験を通して、良い音、核心になる声というのは、想定外の場面にも隠されているのだと感じ、これからの取材姿勢に活かしたいと思いました。
コメント