市電の呼吸に全集中
録音風物誌2022年度番組コンクール 最優秀賞作品
再放送
2022年10月10日~2022年10月16日放送
熊本放送 ラジオ制作部 中村レン
【番組概要】
熊本市電が登場したのは98年前。地元の私たちには欠かせない交通手段のひとつです。
コロナで外出自粛になるまでは、この市電に年間300日以上乗ってきたという中村弘之さん(85)は、毎回独自の「乗車メモ」を取り、運転士の名前とともにその運転技術やアナウンスなど「勤務評定」的なものをつけています。この中村さんがある日出会ったのが「いつ止まったか分からないくらいのブレーキ技術」をもった江崎運転士。他にも「カーブの帝王」や「新幹線並みのスムーズな発車」など職人肌の運転士が揃っています。およそ100人いる運転士は、乗客の安全と快適さのために日々技術を磨いていました。日頃気づくことがない「当たり前の安全」に力を尽くす運転士。100年近い歴史のなかで脈々と受け継がれている運転士の誇りが垣間見えます。
【制作意図】
きっかけは地元新聞の読者の投稿欄。番組にもご出演いただいた中村弘之さんの「びっくりするほどブレーキがうまい運転士がいる」というものでした。市電に乗るお客さんの事情は様々。お年寄りはもちろん、その日具合が悪い人もいます。足が悪くても席がなく立っている人もいます。そんな人たちのために可能な限り優しい運転をしている運転士と、そこに気づいた乗客。見えない交流が素敵だなと思いました。中村さんの投稿が載った後、別の高齢女性からも「その運転士は私も知っています。本当に静かに止まるのです。」というメッセージが新聞に掲載されました。これはホンモノだ!と思って取材しました。
【制作後記】
市電に慣れ親しんでいる熊本市民にとっては、空気ブレーキの音にはなじみがあり、情景がありありと浮かぶのですが、市電が走っていない地域に暮らす人たちにどこまで想像してもらえるだろう?という点に悩みました。乗客の命を預かっている運転士が目指しているのは「安全であたりまえ」を超える快適さ。それが一か所ごとの停留所や信号での優しい停車や揺れのないカーブ、それに静かな加速につながっています。取材後、すっかり市電のファンになった私は、休日など日に3~4回乗車し、そのたびに運転士の名札を確認するようになってしまいました(笑)
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