〜江戸時代から続く防災の教え・安政の呼び上げ地蔵〜
2024年7月15日~7月21日
和歌山放送 報道制作部 寺門 秀介
【番組概要】
和歌山県北部・海南市の上神田(かみかんだ)地区の自治会が、毎年11月5日の夜に行っている津波避難訓練。地元に伝わる「呼び上げ地蔵」の伝説を後世に伝えようと、2018年から続いている。この地蔵は地区の高台にあり、170年前の1854年11月5日に起きた「安政の南海地震」による大津波の際「おいでおいで」とふもとの住民を呼び寄せて津波から救った、という伝説がある。奇しくも同じ和歌山県広川町に伝わる濱口梧陵の「稲むらの火」と同じ時期に産まれている。地区の自治会ではこの伝説にならって津波避難訓練を行い、住民らがリヤカーを引きながら海抜およそ20メートルの呼び上げ地蔵まで避難し、地元の僧侶の読経にあわせて津波の犠牲者に黙とうを捧げる。防災を担当する自治会の役員は「地蔵の歴史を記した古文書を見て震えが止まらなかった。稲むらの火の逸話に匹敵する海南市の宝で、先人の教えを守り伝えなければ」と意義を語る。
【制作意図】
1854年の「稲むらの火」の故事からことし(2024年)で170年の節目を迎える。元日には能登半島地震が発生し、半年経ったいまも復興には課題が山積し、自治体も防災態勢の見直しを迫られている。和歌山県も過去に繰り返し大地震と津波による凄惨な被害を受けてきて、その記憶を様々な形で後世に伝承する動きがみられる。伝説を通じて防災の重要性を説く先人たちの教えを再認識し、世代を超えて未来へつなぐ姿勢を発信したい。
【制作後記】
この訓練を取材した堤圭一報道デスクは、和歌山県内で展開されている防災に関する取り組みを地道に取材し続けている。いわばライフワークで、和歌山放送が「現代の稲むらの火」として聴取者の命を守る存在となれるよう、能登半島地震と稲むらの火170年の重なるいま、全国に発信したいという思いを受けまとめた。海南市の呼び上げ地蔵以外にも、例えば和歌山県南部の田辺市沿岸にある神社の石段には、津波が到達した地点の碑が残されていたり、地元の小・中学校では児童と生徒が地震・津波防災を自ら学び研究発表を行う取り組みも定着するなど、地域教育の中に防災も組み込まれている。現在・過去・未来を問わず命を守る知恵を見いだして、地区の中で共有していく活動を、心から応援し、発信していきたいと改めて感じた。
コメント