2018年10月23日 (火)

ラジオの現場から~樹木希林さん追悼

樹木希林さんが9月15日に75歳で亡くなられた。

数多くのテレビドラマや映画など、かけがえのない演技とその存在感で
観客を魅了した希林さん。
ほとんど知られていないがラジオでも素敵な仕事をされた。

 希林さんとは三度お会いした。最初はある映画祭の打ち上げ。
紹介してくれたのは彼女と多くの仕事をしてきた阿武野勝彦東海テレビプロデューサー。
東海テレビが制作して希林さんが「風が吹けば枯れ葉が落ちる・・」と魔法のようなナレーション
を詠んだ映画『人生フルーツ』は24万人を越える大ヒットとなった。

阿武野さんはふざけて私のことを「兄です」と希林さんに紹介したため、
私も「弟がご厄介をおかけてしております」と深く頭を下げた。
すると希林さんは「あら?お顔は似てないわね。本当にご厄介ばかり。
安いギャラでこきつかわれて(笑)」

そのまましばらく兄になりすましながら、楽しく一緒にお酒を飲んだ。


 二度目は、私が脚本を書いた火曜会(地方民間放送共同制作協議会)
60周年記念ラジオドラマ『神田神・保町 レコード屋のおかみさん』の収録現場。
神保町で中古レコード屋を続けた故・井東冨士子さんのエッセイを土台に作られたドラマで、
希林さんには、おかみさん=井東さん役の語りをお願いした。

希林さんは約束の時間よりかなり早く、一人でふらりと録音スタジオに現れた。
「脚本は事前に読まないから送らなくていい」と言われていた。
その場で初めて私の拙い脚本を声に出されて読まれ、しっくりこない部分だけ質問をされ、
私は手直しをした。

 収録が始まるとすぐそこに、ちょっと伝法な江戸弁を使うレコード屋のおかみさんが立ちあらわれた。
そして最後にスタッフクレジットを読んでいる時、その秘密が彼女から
「不思議なご縁で、私は神田神保町で生まれ育ちました」と語られた。
希林さんの生家は神保町で喫茶店を営み、井東さんのレコード屋とはご近所だった。

番組スタッフは皆勉強不足で、彼女の経歴を記したウィキペディアひとつ見ていなかった。

ドラマが取り上げた関東大震災、東京大空襲など井東さんの家族の歴史は、
希林さんが育った町の歴史でもあったのだ。

誰もがこのドラマの成功を確信した瞬間だった。
その確信はいつしか現実にかわり、番組は第44回放送文化基金ラジオ部門優秀賞を受賞した。
 
じつは脚本に一か所「遊び」を書いた。希林さんが出演した『寺内貫太郎一家』で、
沢田研二のポスターを前に「ジュリーッ!」と叫ぶ場面をGSブーム紹介場面に挿入した。
彼女は楽しそうに身もだえした。
 
 三度目にお会いしたのは、今年7月の放送文化基金賞表彰式。
体調がすぐれず杖をついていらした希林さんだったが、スピーチでは元気よく登壇され
「この番組は予算はない、スタジオもひどいとこでね」と語り始め、場内は大爆笑に包まれた。 

 希林さんは所属事務所はなくマネージャーもおらず、連絡は留守番電話とFAXだけ。
またさりげなく現場では気をつかわれた。
 収録時の弁当もわざわざ「皆さんと同じ物を」と事前に注文され、お菓子を残すこ
ともスタッフには許さなかった。 
 
 希林さんのラジオでは最期の仕事となった『神田・神保町 レコード屋のおかみさん』は、
全国のラジオ局で10月から12月にかけて再放送する。
詳しくは火曜会のHP=radio.or.jpを御覧下さい。
 

 9月30日告別式が希林さんと会う最期となった。

遺された言葉「おごらず、他人と比べず、面白がって平気に生きればいい」
という人生に近づいていきます。
素晴らしいラジオドラマを一緒に作れて幸福でした。


放送作家 石井彰
出典:放送レポート275号(2018.11.12)

2018年10月 1日 (月)

レコード屋のおかみさん再放送一覧

1 HBC 北海道放送 1月1日(火) 21:00-22:00
2 RAB 青森放送 12月16日(日) 16:00-17:00
3 IBC岩手放送 11月11日(日) 17:00-18:00
4 TBC 東北放送 10月6日(土) 20:00-21:00
5 ABS 秋田放送 10月28日(日) 14:00-15:00
6 YBC 山形放送 10月13日(日) 14:00-15:00
7 CRT 栃木放送 10月6日(土) 20:00-21:00
8 IBS 茨城放送 12月30日(日) 22:00-23:00
9 BSN  新潟放送 12月31日(月) 21:00-22:00
10 SBC 信越放送 10月10日(水) 20:00-21:00
11 SBS 静岡放送 12月30日(日) 20:00-21:00
12 KNB北日本放送  12月31日(月) 15:00-16:00
13 MRO 北陸放送 12月31日(月) 10:00-11:00
14 FBC  福井放送 12月30日(日) 15:30-16:30
15 GF  岐阜放送 10月27日(土) 20:00-21:00
16 KBS 京都放送 10月28日(日) 12:00-13:00
17 WBS 和歌山放送 12月29日(土) 12:00-13:00
18 BSS 山陰放送 10月28日(日) 18:00-19:00
19 RCC 中国放送 12月31日(月) 15:00-16:00
20 JRT 四国放送 12月30日(日) 18:00-19:00
21 RNC 西日本放送 12月30日(日) 18:00-19:00
22 RKC  高知放送 10月28日(日) 21:00-22:00
23 RKB 毎日放送 11月7日(水) 20:30-21:30
24 RKK  熊本放送 11月25日(日) 13:00-14:00
25 OBS 大分放送 12月30日(日) 12:00-13:00
26 MRT 宮崎放送 12月30日(日) 19:00-20:00
27 MBC 南日本放送 11月17日(土) 19:00-20:00
28 ROK ラジオ沖縄 11月1日(木) 21:00-22:00
29 ラジオNIKKEI 1月1日 18:00-19:00

★12月12日時点

2018年9月19日 (水)

おかみさん・樹木希林さん逝く


9月15日、「神田・神保町 レコード屋のおかみさん」で語りをしていただいた
樹木希林さんが亡くなられました。

7月の放送文化基金賞贈呈式では元気なお姿で、ユーモアたっぷりの
愛情あふれる素敵なスピーチをしていただいた希林さんの訃報に、
番組スタッフ、火曜会加盟局担当者一同驚きとともに悲しみに包まれています。

奇しくもNHKでおかみさんの番組放送が決まり、喜んでいた矢先の出来事でした。

神保町で生まれ育った樹木希林さんの「おかみさん」

希林さんのお仕事へのプロフェッショナルな凄みや、温かい気遣いあふれるお人柄を
偲び、すべては色々なご縁から始まったこの番組を大切に大切に、受け継いでいこう。

そんな風に思うのです。



番組で流れるムーンライト・セレナーデが、希林さんのエンディングの言葉が。
格別に胸に沁み入ります。

「いつまでも長生きいたしましょう。。。んなこと言ったってねぇ」



NHKでの放送詳細です。少しオリジナルより短くなっていますが、
これでまたひとりでも多くの方にこの番組を聴いていただけます。
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NHKラジオ第一「ザ・ベストラジオ2018」

 放送日時 2018年10月10日(水)午後4:05~4:55


【番組趣旨】

皆様に長年親しまれてきたラジオは、今年で92年という歴史を重ね、様々な優れた番組を生み出してきました。NHKラジオ第1では、「ザ・ベストラジオ2018」と題して、主に、平成29年度に放送されたラジオ番組の秀作選を、公共放送・民間放送の垣根を越えて、10月の4日間にわたってお届けします。いずれも国内の代表的な放送番組コンクール受賞作品ばかりです。

 

 ゲスト:石井彰(放送作家、文化庁芸術祭・民間放送連盟賞 審査員)

  進行:山田敦子(NHKアナウンサー)

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「おかみさん」樹木希林さんのご冥福をお祈りいたします。

2018年7月12日 (木)

第44回放送文化基金賞 贈呈式

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7月某日。
ホテルオークラ アスコットホールにて第44回放送文化基金賞贈呈式が執り行われました。

なんとも煌びやかで華やかなステージ。
「地方民間放送共同制作協議会 火曜会」の文字がスクリーンに映し出された瞬間、
感慨がこみ上げてきました。


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番組の音源が流れる会場。



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企画・解説として亀渕さんと、今年度火曜会代表幹事が登壇。

ラジオ部門審査委員長の言語学者・金田一秀穂先生より盾と副賞を受け取りました。


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おかみさんの語りをしてくださった樹木希林さんも登場!!
ユーモアあふれるスピーチで場が一気に笑いで包まれ盛り上がりました。

「予算はない、スタジオもまあひどい(笑)
でも神保町に生まれ育ったものとしてこれもご縁ですね。
スタッフの皆さんが喜んでくださってそれがよかったなと」





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報道陣がずらり!
宮崎あおいさん、中井貴一さん、爬虫類ハンターの加藤英明さんなど
受賞された著名人も同じく壇上に上がられスピーチをされてました。

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レコード社、富士レコード社の皆さんも来てくださいました。
全員で記念撮影!


放送文化基金賞 ラジオ番組部門優秀賞。

火曜会として加盟局37社の皆さんが受賞した栄誉ある賞。
皆さん一人一人が誇りに思っていただけると幸いです。



2018年6月 6日 (水)

第44回放送文化基金賞 優秀賞受賞!!


第44回放送文化基金賞 ラジオ番組部門で
火曜会60年記念番組「神田・神保町 レコード屋のおかみさん」が優秀賞を受賞いたしました。

放送文化基金賞ホームページ


”放送文化基金賞”とは

【視聴者に感銘を与え、放送文化の発展と向上に寄与した優れた放送番組】
【放送文化、放送技術の分野での顕著な業績】を対象に表彰します。

過去1年間(平成29年4月~30年3月)の放送の中から選ばれた、優れたテレビ、ラジオ番組や個人・グループに毎年贈られる賞です。今回は、全国の民放、NHK、プロダクションなどから、全部で286件の応募、推薦がありました。


火曜会としての過去の受賞は、録音風物誌の長年にわたる放送への功労が認められ、
昭和56年度に個人・グループ部門で受賞していますが、
それ以来となる今回は「ラジオドラマ」としての誠に光栄な受賞といえます。

制作していただいた
企画・解説 亀渕昭信さん
脚色 石井彰さん
演出 入江たのしさん のお宝POPS制作チームと

音響効果 武田勝美さん
編集 高橋直子さん

ご協力いただいた
レコード社、富士レコード社の皆様

火曜会加盟各局とお宝POPS担当チーム

そして何より

おかみさん役を引き受けてくださった
樹木希林さん

この番組が作られる直前に亡くなられた「レコード屋のおかみさん」
井東冨二子さん

に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
7月3日に贈呈式が執り行われます。
その模様もご報告させていただきたいと思います。

2017年12月18日 (月)

楽曲紹介

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作品中流れた音楽をご紹介いたします。(60分バージョン)

♪東京行進曲/佐藤千夜子

♪ハンガリー舞曲第1番/ブラームス
(フリッツ・クライスラーのヴァイオリン演奏、ファルケンシュタインのピアノ伴奏) 

♪ピアノ交響曲第1番/チャイコフスキー
(ディミトリー・ミトロプーロス指揮、ミネアポリス交響楽団
アルティュール・ルービンシュタインのビアノ演奏) 

♪ムーンライトセレナーデ/グレンミラー

♪交響曲第6番 田園 /ベートーヴェン
(ブルーノ・ワルター指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 )

♪マニャーナ/ペギー・リー

♪越後獅子 / 美空ひばり  

♪上海帰りのリル / 津村謙

♪野球小僧 / 灰田勝彦

♪みかんの花咲く丘 / 川田 正子

♪ア・ハード・デイズ・ナイト / ザ・ビートルズ

♪ブルーシャトウ / ジャッキー吉川とブルーコメッツ

♪帰ってきたヨッパライ / ザ・フォーク・クルセダーズ

テーマ:インザムード/グレンミラー

2017年12月11日 (月)

収録裏話 クレデンザ篇

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神田・神保町、レコード社の兄弟会社・SPレコード専門店富士レコード社に

クレデンザは鎮座しています。

番組に流れる数々のレコードは富士レコード社さんのご協力のもと
音源収録させて頂きました。

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手巻き蓄音機クレデンザ。

番組スタッフも初めて見る者も数人いて、こんなに間近に蓄音機の音を聴く機会も
なかったので貴重な経験でした。

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こんな風に音を収録していきます。

ぎぎーっと蓋を閉じる音
手巻きハンドルを巻き上げる音


細かい演出を是非番組で聴いてみてください。

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番組のテーマになっているグレンミラーの「インザムード」SPレコード。
ずっしりと重量感あります。

富士レコード社さんでは定期的に蓄音機のコンサートを開催されているので
ご興味ある方は是非神保町へ!

2017年12月 1日 (金)

収録裏話その2

1

和やかな打ち合わせから、台本を読み込む希林さん。



さらっと一度読まれると

「じゃ、やりましょうか」

スタジオに入った瞬間、ピリッとした空気が生まれ
空調とマイクの位置を細かく指示される。

表情が引き締まる。

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台本を書かれた放送作家の先生、
そしてスタッフがサブ(副調整室)に入りスタンバイ。


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ディレクターI氏も緊張感と共に希林さんの合図を待つ。


「あら亀さん、いらっしゃい」


冒頭のセリフひと言でスーーーーっとスタジオが一瞬で神田・神保町のレコード屋さんになる。
どんどんおかみさんの世界に引き込まれる。


何十回も台本を読み込まれたかのようにどんどん希林さんは読んでいく。
時々セリフに腑が落ちないと「これはどういう意味?」と必ず確認し
納得されるとご自分のものとなりまた進行していく。


順調な収録。
予定よりもかなり早く進み、後半に入ってくるとふと希林さん。


「あたし言ってなかったけど、実は神田・神保町の生まれなのよねぇ」

一同驚愕!!

えっ!?

「両親が神保町すずらん通りでカフェーをやってたのよ、だからおかみさんとうちの親は面識があったかも知れないわね」


だから最初の打ち合わせの時に「すずらん通りにどの辺にあったのか」を
お尋ねだったんですね。

希林さんのご両親は「東宝」という名前のカフェを経営されていたそうなのです。


あまりの符号に言葉が出ないでいると



「だからこのお仕事のお話が来た時、あぁあたしはこのお仕事やるんだな、ってご縁を感じたのよ」

そこからはスタジオの希林さんもサブのスタッフも
空気がまた変わって夏のせいだけでない「熱」を感じました。

そして希林さんのアドリブでエンディングのセリフが少し変わりました。
希林さんご自身の言葉でいただいた、素晴らしいセリフ、是非オンエアで
聴いてみてくださいね。







2017年10月17日 (火)

樹木希林さん収録裏話

8月某日、都内某所のスタジオ。

朝9時半にお越し下さい、と案内をしていたので
9時10分になり下へお出迎えに行こうとしたら

「おはようございます」と希林さん!!

スタッフ一同、一瞬動揺していると

「今日は若作りしてきました~(笑)」

と希林さんのウィット溢れるひと言で場が和む。

おさげにワンピース、手には素敵な籠バッグ。

さりげないお洒落と柔らかな雰囲気に初対面のスタッフが多い中
みんな一瞬にして希林さんファンに。



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亀渕さんがレコード屋のおかみさん=レコード社社長の井東冨二子さんの
似顔絵やエッセイなど資料をお見せしながら打ち合わせ。

「レコード社さんはすずらん通りのどの辺りにあったのかしら」

と希林さんが尋ねられたがその時は答えられなくてそのままに。
これがのちほどスタッフが衝撃を受ける伏線となることはその時は誰も分からなかった。





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